第81話 【音速の断り宣言】
和也は冷や汗を流しながら、英理の纏う怒りのオーラが限界突破しつつあるのを察した。
(あかん…! これ以上ここに瑞穂を居らせたら、瑞穂が帰った後に凪が物理的に消される…!!)と直感した和也は、強引に会話を打ち切るべく慌てて立ち上がった。
「瑞穂、そろそろ結構ええ時間やし、家まで送るわ」
「あ、本当だ! もうこんな時間だね。じゃあ、和也くんに甘えちゃおうかな」
和也はホッとした表情を浮かべつつも、後に残される親友の姿を見て、顔を曇らせた。
(凪…ほんま、生きておけよ…!)
凪は泣きそうな目で(和也、俺を置いて行かんといてくれ…!)と視線で訴え返すが、無情にも和也は瑞穂を促して玄関へと歩き出す。
瑞穂は最後に、靴を履きながらひょっこりとリビングの方を振り返った。
そして、凪に向かって、極大の爆弾を笑顔で投げ落とした。
「あ、そうだ凪さん! さっきの早紀の件、もし気が変わったらいつでも言ってね? やっぱり紹介してほしいなーって思ったら、すぐメールするから!」
「ぶっ…!!」
凪の心臓が、本日何度目か分からないくらい跳ね上がる。
「ちょ、瑞穂さん、それ…っ!」
「じゃあねー!」
凪の決死の制止も虚しく、瑞穂はフリフリと手を振って、和也と一緒に元気よくドアを閉めて出て行ってしまった。
静まり返る玄関。そして、静まり返るリビング。
「…へぇ。気が変わったら、ねぇ?」
「…なんか、大学生活って楽しそうやねぇ?」
「あ、英理…?」
「凪くんも大学に行けば、瑞穂さんの話によるとモテモテみたいやね。
『神之浦英理似の早紀さん』かぁ、
確かにめちゃくちゃ可愛かったねぇ。私、今こんな変なダサい格好している『本物の神之浦英理』より、ずーっと可愛かったよねぇ? 凪くん?」
顔を真っ赤にして叫んだ。
「あ、英理! 何を勘違いしとるんや! あれは瑞穂さんの話のペースが早すぎたんやって! 俺、マジでびっくりしたわ!」
「びっくりしただけで、あんなに嬉しそうに『めちゃくちゃタイプやな』って、鼻の下伸ばして頷いとったん?」
「伸ばしてへん! 伸ばしてへんって!! あれは、瑞穂さんが急に『神之浦英理』なんて言うから、動揺して思わず口から出てもうただけや! 嘘偽りなく、俺のタイプは世界で唯一、英理だけやから!!」
「瑞穂さんにもな、本物の『神之浦英理』が俺の彼女や!ってちゃんと言えれば、こんなややこしい誤解なんかされへんかったんや…!」
そんな凪の、必死すぎる直球の告白ともどかしさをぶつけられ、英理は一瞬だけ丸い目をさらに丸くした。
「…凪くん」
瑞穂の前で「俺の彼女」と言いたくてたまらなかったという凪の健気な本音に、さすがの英理もそれ以上意地悪を続ける元気がなくなってしまい。
英理は組んでいた腕をゆっくりと解くと、
「…もう、瑞穂さんにそんなこと言ったら、和也お兄ちゃん共々ひっくり返っちゃうでしょ」
「そんなん分かっとるけど! 分かっとるから、俺も必死に脳みそフル回転させて言い訳しとったんや。…英理、ほんまに俺には英理だけやから。信じてぇな」
「ふふ、もういいよ。凪くんがそこまで必死になるなんて、ちょっと面白かったし。
でも、瑞穂さんがまた早紀さんの写真見せてきたら、今度はちゃんと『興味ありません!』って秒で断ってね?」
「おう! 次は音速で断るわ!!」




