第8話 【三原高校での初告白】
三原高校の昼休み。
教室のスピーカーから流れるヒット曲が、賑やかな室内を満たしていた。
「ねえ英理、今の曲バリ良くない? サビのところとかめっちゃ好きなんだけど」
ナオが雑誌から顔を上げて笑う。
「うん、切なかけど、よか曲よね」
机に頬杖をついていた英理も、柔らかく笑みを返した。
「あの、神之浦」
気取った声に顔を上げると、ワックスで髪をガチガチに固めた男子生徒が机の横に立っていた。
周囲の雑音が一瞬引いて、クラス中の視線が集まる。
「えっ……?」
英理はきょとんと首をかしげた。
「高橋です。ちょっと今から、二人で話聞いてもらえんかな」
いかにも自分に自信がありそうな笑みを浮かべる高橋と、息をのむ教室の空気。
隣でナオが「え、マジ?」と目を丸くして、英理の脇腹を突いてくる。
「話……? あの、うちと話すことなんかありましたっけ?」
悪気も何もない、心底不思議そうな一言。
高橋は一瞬だけ表情を引きつらせたが、すぐに不敵な笑みでごまかした。
「ここだと、みんな見とるけん……あっちで話さん?」
「あ、うん……。ナオ、ちょっと行ってくるね。落とし物でも届けてくれたとかもしれんし」
「落とし物って……あんたねぇ」
ナオは呆れたように肩をすくめ、小さく手を振った。
♢
渡り廊下の突き当り。
「神之浦さん、急にごめんね。……その、今付き合っとる人っておる?」
「えっ」
頭の中で「落とし物」を探していた英理は、予想外の言葉にパチパチと瞬きをした。
「付き合っとる人……?」
「そう。彼氏とか」
「おらん、けど……」
「ほんと? じゃあ……俺と付き合ってくれんかな」
「……っ?」
頭の中でようやく言葉の意味が繋がる。
名前もよく知らない人からの、突然の交際申し込み。
急にゾッと怖くなり、一刻も早く教室へ帰りたくなった。
「あ、あの……ごめんなさい」
「え?」
「うち、あなたの名前も知らんし……意味分からんけん、無理です。失礼します」
ペコリと頭を下げるやいなや、英理はスカートをひるがえしてダッシュで廊下へ逃げ出した。
「え? い、意味分からんって……」
あ然とした高橋だけが、渡り廊下にぽつんと取り残された。
教室へ戻るなり、英理はハァハァと息を切らして自席に滑り込んだ。
ナオがニヤニヤしながら身を乗り出してくる。
「おかえり。で、なんの『落とし物』やった?」
英理は顔を真っ赤にして、ナオの耳元に顔を寄せた。
「ねえナオあの先輩、バリ怖かったとよ!」
「は? 怖かった?」
「いきなり付き合ってほしいとか言い出して! うち、名前も知らん人になんでそんなこと言われんとの? 意味分からん!」
ナオは一瞬あっけにとられたが、次の瞬間、お腹を抱えて吹き出した。
「あははは! 2年の高橋先輩やん! 学校で一番モテるグループの人とよ、即答で振るとか容赦なさすぎ!」
「モテるとか知らんよ! 怖かったっちゃもん!」
「はいはい……ふーん、2年のイケメン先輩は『意味分からん』で秒殺ねぇ? なのに、鳴滝の凪くんの話の時は、あんなに顔真っ赤にしてニヤニヤしとったとに?」
「なっ……! それとこれとは話が別やんか!」
ナオの鋭いツッコミに、英理はまたしても顔を耳まで真っ赤にして抗議した。




