第7話 【運命の『凪くん』】
休み時間、賑やかな三原高校の教室。
英理は自分の席に座り、胸の前でそっと指を組みながら、少し上気した顔でナオを引き寄せた。
「ナオ、あのね。この前の事故で助けてくれた人のことなんだけど」
「ん? あの鳴滝のヒーローさんのこと? 何か分かったと?」
ナオが、一気に身を乗り出す。
英理は周りの目を気にするように声をひそめ、照れくさそうに打ち明けた。
「うん、お兄ちゃんから聞いたと。あの人、お兄ちゃんのクラスの友達で…『凪くん』っていう人だったっちゃんね」
「はぁ!? お兄ちゃんの友達!?」
ナオが大声をあげそうになり、英理は焦ってナオの口を両手で塞いだ。
「ちょっと、ナオ! 声が大きいって!」
「んぐっ…ごめんごめん! いや、でも凄くない!? まさかお兄ちゃんの親友だったなんて、それもう運命やん!」
ナオは目を見開いて大興奮。しかし次の瞬間、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて英理の顔を覗き込んだ。
「ていうかさぁ、英理。『凪くん』って、もう下の名前で呼んどると?」
「えっ! あ、いや、それは…っ!」
不意を突かれた英理は、一瞬で顔を耳まで真っ赤に染めた。
「お、お兄ちゃんが『凪』って呼んでたから! だから私も、つい…っ!」
「ふーん? 『つい』ねぇ~? まだ直接ちゃんとお礼も言えてないのに、心の中じゃもう『凪くん♡』って呼んじゃってさ~」
ナオは指で英理の真っ赤な頬をツンツンとつつく。
「昨日からずっと『私のヒーロー、凪くん…』って、うっとり考えてたんでしょ?」
「か、考えてなかよ! もう、からかわんでよナオ!」
英理はドギマギしながら両手で熱い頬を包み込む、その慌てようと可愛らしさは、誰が見ても恋する乙女そのものだ。
「顔、バリ真っ赤やん! 完全にノックアウトされとるやんか!」
「ち、違うってば! 命の恩人だから、ちゃんとお礼が言いたいだけで……っ! 恋とか、そんなんじゃないと!」
「はいはい『恋じゃない』ねー。でもさ、お兄ちゃんの友達ならさ……これからおうちに来たり、会えたりする機会もあるっちゃない?」
ナオにそう言われ、英理はハッと息をのんだ。
(お兄ちゃんの、友達。うちに来ることもあるのかな)
想像しただけで胸がドキンと跳ね上がり、英理はすっかり口を噤んで固まってしまう。
そんな分かりやすすぎる親友の反応に、ナオは「わかりやすすぎ!」と爆笑しながら、楽しそうに英理の肩をポンポンと叩く。




