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凪の坂道  作者: 凪葉
第2章 東京編
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第78話 【深夜の防衛戦】

「彼女の瑞穂みずほがな! 『どうしても和也くんの部屋が見たい!』言うてゴネて、無理やりここまでついてきたとよ!!」


「ええっ!? 瑞穂さんって、その彼女さんが今そこに!?」


「そうや! 妹と二人暮らしとは言うとるけど、まさかその妹が話題の女優の『英理』やなんて、口が裂けても言えんやろ!?


今、ちょっと荷物片付けるけん言うて、玄関先で待たせとる!


英理、お前今すぐ前髪上げて眼鏡かけるか、なんか物凄うダサいジャージでも着て、とにかく絶対にバレん格好にしろ!」


和也は必死の形相でリビングを見回し、クローゼットを指差した。


しかし、そこで彼の視線が、ソファの横で転がっている「もう一人の人物」の姿を捉えた。


和也の動きが、ピキッと完全に停止する。


「…って、ええええええっ!? 凪!? お前、何でそこにおるんやぁぁぁっ!?」


(や、やばい…っ! あと数センチでキスするところやった!)


(凪くん顔真っ赤やもん! お兄ちゃんに見られたら一発でバレる…!)


二人は一瞬だけ目を合わせ、必死のアイコンタクトで冷や汗を流しながら焦りを共有する。


「い、いや、何でって俺、今日は英理と会う約束しとったから、普通に部屋で待っとっただけやけど…」


凪はひっくり返りそうな上ずった声をなんとか取り繕う、だが、明らかに動揺して手が微かに震えている。


英理も必死でアイスのカップを握りしめ、目を泳がせながら上ずった声でフォローを入れた。


「そ、そうよお兄ちゃん! 凪くんはただ…アイス食べてただけやもん! や、やましいことなんて、なーーーんにもしてへんよ!?」


「お前なんでそんな必死なんや! 動きも声も挙動不審すぎるぞ!」


和也は二人の不自然な焦り方に一瞬怪訝な顔をしたものの、再び頭を抱えて文字通り発狂しそうな声を絞り出した。


「計算狂ったわ! こんな夜中に妹が部屋に男連れ込んどるなんて、瑞穂に知られたらイメージ悪すぎるやろが!


『どんなだらしない家なん!?』って引かれたらどうすっとや! 終わった、もうおしまいや…!」


和也のあまりのパニックぶりに、凪が「だから、やましいことは何も…」と言いかけると、和也は鬼の形相で睨みつけてきた。


「バカ! もしそんな事しとったら凪、本気で殺すけんね!!」


「えっ…和也怖すぎ…」


「お兄ちゃん怖すぎやろ…」


和也のガチすぎる脅しに、凪と英理は同時に体をすくませて声を揃えた。



「ああっ、もうとにかく瑞穂に凪のことなんて説明すればよかとや! 妹が部屋に男連れ込んどるなんて絶対に言えんし、どう言い訳したらええんか分からんわ!」


行き詰まる兄を見て、英理はポンと手を叩き、冷静に提案する。


「そうしたら、普通に『長崎からの仲良しの友達として、和也が留守と知らず、遊びに来とる消防士の凪くん』として紹介しんしゃい。それなら怪しまれんでしょ?」


「あ…! 普通やな、俺焦り過ぎてた。それならいけるか! よし、それでいくわ!」


「じゃあうち、今のうちに隠れるけんね。凪くん、あとはよろしくね!」


英理はそう言うと、足早に自分の部屋へと戻っていった。


ドアを閉める直前、前髪をヘアピンで雑に上げ、クローゼットから小豆色のダサい綿ジャージを引っ張り出す。


リビングに取り残された凪は、「えっ、俺一人で対応するん!?」と焦るが、時すでに遅し。


閉まったリビングのドアの向こうから、高く可愛らしい女の子の声がすぐそこまで迫っていた。


『和也く〜ん? もう入ってもいい? 結構待ってるんだけど〜!』


和也と凪は、ゴクリと唾を飲み込んでドアを見つめた。


ガチャリとリビングのドアが開くと、そこには少し首を傾げながら、好奇心いっぱいの目を輝かせた瑞穂が立っていた。


「和也くん、お邪魔しまー…す?」


瑞穂は一歩足を踏み入れた瞬間、ソファの前に直立不動で立っているガタイのいい男…凪の姿を見て、ピタリと動きを止めた。


一瞬でその可愛い顔を驚きに染め、和也と凪を交互に見つめる。


「えっ…? 和也くん、こちらの男の人は? なんで男の人がいるの? 妹さんと二人暮らしじゃなかったの?」


瑞穂からの当然すぎる疑問。


「あ、いや! 違うんよ瑞穂! こ、こいつはな! 長崎の、あの、高校時代からの親友の凪言うて、ほら、前にちょっと話したかもしれんやろ!? 今、東京で消防士やっとるんやけど…」


「初めまして! 凪って言います。和也とは高校の時からずーっとバカやってた仲なんですよ。

俺、今こっちで消防士やってるんですけど、和也の家にはたまに晩飯を気軽に食べに来させてもらってて。


和也の彼女さんですか? いやぁ、和也のやつ、こんな可愛い彼女がおるなんて一言も言うてくれへんかったから、俺もびっくりしてもうて!」


凪のどこか親しみやすい軽い関西弁の挨拶と、絶妙な褒め言葉に、瑞穂は一瞬にして表情を和らげた。


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