第77話 【じゃあ、今から…する?】
しばらく月日が経った、ある日の深夜。
撮影が予定より少し早く終わった英理のマンションに、凪が遊びに来ていた。
ソファに並んで座り、コンビニで買ったアイスを二人で分け合って食べる。
それが、今の二人にとっての何よりの贅沢だった。
「あー、冷たくて美味しい! 今日の撮影、すっごい緊張するシーンやったけん、体に染みるわぁ……」
英理はアイスを口に運びながら、ふにゃりと笑った。
「そう言えばね、凪くん。お兄ちゃん、最近大学で彼女ができたみたいなんよ」
「えっ、マジで!? 和也に彼女ぉ?」
「うん。今もその彼女と会っとるらしくてね、今日は遅くなるみたい」
英理がクスッと笑うと、凪はスプーンを置き、どこか含みのある目つきで英理をジロリと見つめる。
急に真顔になった凪に、英理は首を傾ける。
「なぁ、英理」
「ん? なに?」
「今週のドラマの予告、観たで。
またえらい体張った……ラブシーンしとったなぁ……?」
「……まさか、キ……キスとかしとらんやろ……?」
「…………」
「……あれ、ほら。ドラマのキスシーンって、映像の加工とか合成とか……そういうんやろ?」
英理は答えなかった。
「……え?」
凪の動きが止まった。
「え……英理……? 今の沈黙、なんや……?」
「し……仕事やから!」
英理は真っ赤になって、早口で言った。
「し、仕事やけんね!? 演出やし、画面の角度とか色々あって……!」
「え……英理……俺とだって、まだキスしてへんのに……っ」
「ち、違うと! あれは演技! 撮影! 凪くんとは全然別物やもん!」
英理は真っ赤になりながら、凪の服の裾をキュッと引っ張った。
「……じゃあ、今から……する?」
「……え?」
凪がポカンとする。
英理はしばらく黙ってから、小さな声で言った。
「……凪くんと、まだしとらんかったけん……」
凪は耳まで真っ赤になった。
「英理……お前、そんなん反則やろ……」
♢
二人が顔を近づけた、その時だった。
ガチャン! バタバタバタッ!!
玄関のドアが開く音が響き、血相を変えた和也がリビングに飛び込んできた。
「……っ!?」
二人は慌てて離れた。
英理はソファの端まで飛び退き、凪は「うおっ!?」と床に転がった。
「英理!! 大変や、えらいことになった!!」
「お、お兄ちゃん!? どうしたんと、そんなに慌てて!」
和也はリビングのドアを閉めると、そのまま二人に向かって口を開いた。




