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凪の坂道  作者: 凪葉
第2章 東京編
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第71話 【東京の部屋、集う四人】

翌日の夜。英理と和也が住むマンションの一室からは、スパイシーで食欲をそそる良い香りが漂っていた。


「ほら、和也! 玉ねぎもっと細かく切ってよ。凪くんが来るまでに準備終わらんと!」


「分かっとるって! 英理こそ、キッチンでガチャガチャ騒ぐなや」


キッチンでは、エプロン姿の和也が手際よく包丁を握り、その横でナオが楽しそうにサラダを盛り付けている。

実はこの夜、英理は凪へのサプライズとして、ナオをこっそり呼んでいたのだった。


「英理、うち久しぶりやけん凪くん来るのドキドキするね!」


「もう、ナオが一番楽しみそうやん」

そんな会話をしていると、玄関のピンポーンという電子音が鳴った。


「…あ、来た!」


英理の顔がぱっと明るくなり、足早に玄関へ向かう。


ドアを開けると、そこには消防署のハードな勤務を終えたばかりの凪が立っていた。

少し疲れは見えたが、英理の顔を見た瞬間、その表情がふっと和らぐ。


「…お疲れ様」


「おう、お疲れ。…急に押しかけて悪いな」


英理は少し照れくさそうに凪の服の裾を小さく引っ張り。


「…待っとったよ。入って」


英理が促すと、凪は少しはにかみながら部屋の中へと足を踏み入れようとした。


「お邪魔しま…えっ?」


リビングへと視線を向けた凪は、そこにいるはずのない人物を見て目を丸くした。


「よっ! 久しぶり、凪くん!」


キッチンからひょっこりと顔を出したナオ、その光景に、凪は驚きを通り越して思わず苦笑いをこぼした。


「ナオ…? お前、なんでここにおんねん」


「英理が呼んでくれたんと! せっかくだし、みんなで食べた方が美味しいやろ?」


リビングに、スパイスの香りと賑やかな笑い声が満ちていく。

食卓の準備が整い、みんなでテーブルの周りに集まった。


「ナオ、久しぶりやな。最後に会ったの、俺と和也が高校卒業する頃やったか。もう一年以上経つん?」


「そうやよ! 凪くんも東京来てから全然会えてなかったもんね」


凪はまじまじとナオの顔を見つめ、少し驚いたように言う。


「いや、びっくりしたわ。大学生になったん? なんか…前よりずっと大人っぽくなって、雰囲気変わったなぁ。ええ感じやん」


「なっ…! いきなりそんなこと言わんといてよ! 久しぶりに会ったのに、えらい褒めてくれるけん恥ずかしいやん!」


その時、凪はふと横から冷たい視線を感じた。


英理はわざとらしく大きくため息をつき。


「ふーん。そうなんや。ナオの方が、今のうちのすっぴんより『いい感じ』なんやね」


小さな声でそう呟くと、英理はテーブルの上のグラスを指でカリカリと弾き、拗ねた様子を隠そうともしない。


私の前で、他の女の子を褒めるなんて。


凪は頭をかき、少し慌てた様子で英理の隣へと腰を下ろした。


「あ、いや…ちゃうねん、英理。ただ、久しぶりやったから…その、大人っぽくなったなぁって思っただけで」


凪が恐る恐る英理の顔を覗き込むと、英理はそっぽを向いたまま「…ふん」と鼻を鳴らした。


「英理が一番やって。そんなに拗ねるの、久しぶりに見たわ」


凪が少し声を落として耳元で囁くと、英理はまたプイッとしながらも、少しだけ口角が上がってしまうのを隠せなかった。


「…もう。次はナオのこと褒めるんじゃなくて、うちのこと褒めんと許さんけんね」


「分かった、分かったって。…今日もお疲れ、英理」


ナオは二人のやり取を見て、


「あーあ、相変わらずラブラブやねぇ」

と、呆れ混じりに笑っていた。



和也がカレーを皿によそいながら、ふとナオの顔を覗き込む。


「そういやナオ、長門と別れたんやって? 英理から聞いたわ。」


「もう、蒸し返さんといてよ。今はもう吹っ切っとるし」


ナオが少し苦笑いすると、凪も真剣な表情でナオに向き合った。


「…ナオ、元気そうに見えても無理してるなら言えよ。俺らはずっと仲間なんやから」


「ありがとう、凪くん。やけん、今度うちの大学とインカレの合同コンパがあるんよ。気分転換も兼ねて、そこに参加してみようかなって思って」


和也がポンと手を叩いた。


「おっ、よかやん。ナオも来るんか? 俺も行くし、一緒に行こうや。俺がしっかり面倒見たるわ」


「そうやね、ナオ。和也に任せとき。あいつ、ああ見えて頼りにはなるけん」


英理が微笑むと、和也は胸を張って「任せとけって。最高のコンパにしてやるけん」と請け負った。


すると、横でカレーを頬張っていた凪が、唐突にスプーンを止め。


「…ん? コンパってなんや? なんか楽しそうな話になってるけど」


「え? コンパだよ、凪。合コンのこと」


和也が説明すると、凪は目を輝かせた。


「合コンか! ええなぁ、楽しそうやん。俺、大学って一回も行ったことないし、一回どんなもんか見てみたかったんよ。和也、俺も行ってええ?」


その言葉に、部屋中の空気が凍りついた。英理、和也、ナオの三人が、スプーンを止めてポカンと凪を見つめる。

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