第58話 【ふたりだけの基準】
(長門くんか…)
(後は、俺が答え出すから。今日わざわざ教えてくれて、本当にありがとう。
…ナオと、仲良くしてやってな)
「長門くん!」
帰ったはずのナオが小走りで駆け寄ってきた。
「どうやった? 話、ちゃんとできた?」
長門は、張り詰めていた肩の力をふっと抜き、少し照れくさそうに頭を掻いた。
「ああ…なんとか、な」
「とにかく、俺らがしたことの全部。…正直に言うた。さっきは本人を前にして、結構きついこと、失礼なことも言ってもうたばい」
「でもな、ナオ。凪くん、最後はちゃんとした目で俺を見てくれたよ。俺が何を言いたかったのか、ちゃんと受け止めてくれた気がするたい」
ナオは長門の言葉を静かに聞き、そっと彼の手を握った。
「そうか…。長門くんがそこまでしてくれたんやもん。凪くに、きっと何かが届いたはずだよ」
河川敷の遊歩道を歩きながら、ナオは長門の温かい手の感触を確かめるように、少しだけ力を込めて握り直す。
「長門くん、さっきはあんなこと言って凪くんを追い込んだのに、今の気分はどう?」
ナオは少し茶目っ気を含んだ視線を長門に向けた。
「あのさ、凪くんってほんと普通やろ? 見た目も、話す感じも、どこにでもいそうな男の子やん。
あんなに騒がれる三原のマドンナである英理が、なんで他の誰でもない凪くんのことが好きなのか…さっき話してみて、なんとなく分かった?」
長門は先ほど凪と対峙した時の、あの真っ直ぐな眼差し。情けなくて、不器用で、それでも最後には自分の足で歩き出そうとしていた背中。
「確かに、派手なところは一つもないな」
「ばってん、分かるような気がするたい。俺がどれだけ厳しいことを言っても、最後には逃げずに受け止め。……あいつには『まっすぐさ』があるんやろな。
英理さんが惹かれたのは、たぶんそういうところなんやろうな」
「まあ、俺にはナオ以外おらんけどな」
ナオは「もう、何言ってるんよ」
「もし、英理が…例えば、他の誰か別の男の子と付き合ったとするやん? 最初はきっと楽しいと思うよ。
新しい恋のドキドキとか、優しくされたりとかね。それは誰でもそうやろうし」
「うん、そうかもしれんな」と長門が相槌を打つ。
「でもね、多分、いつかどこかで『何か違う』って感じるはずなんよ。
ふとした瞬間の違和感っていうか…。そして結局、あの子は凪くんの影を思い出して、懐かしがったり、寂しくなったりするんやと思う」
ナオは握っていた長門の手をぎゅっと握り直し、少し強めに言った。
「あの二人の間にある『不器用さ』って、他の誰かじゃ絶対に埋められへんのよ。
たとえ誰といたとしても、心のどこかで凪くんという基準を求めてしまう。…本当に、面倒くさい二人やよな」




