第55話 【ただ寄り添う距離で】
三原高校の教室で、ナオは英理の隣でいつも通りに振る舞っていた。
自分から昨日の喫茶『たんぽぽ』の件について一切触れてこない英理に対し、ナオは休み時間のふとした合間に、ごく自然なトーンで口を開いた。
「あ、そういえば昨日…凪くんもおばあさんの体調不良で学校休んでて、来れんかったみたいよ」
「…おばあさんの体調?」
「そう…凪くんも、来れなかったんだ」
英理は、それ以上凪の名を口にすることはなかった、ふと窓の外を眺める横顔には、以前よりも深い思索の跡が刻まれていた。
一方、鳴滝高校の教室でも、和也は凪と以前と変わらぬ距離感を保っていた。
凪は登校を再開したが、どこか生気のない、静かな日々を過ごしていた。
あえて「英理はどうだ」などと訊ねることはしなかった。
他人の恋を自分のことのように動かそうとしていたナオと和也だったが、今はただの友人として、二人の傍らに寄り添うことだけを選んだ。
凪はここ数日、どこか上の空だったが、今日は朝から少しだけ雰囲気が違った。
「和也、この前貸してくれた『モンスターハンターポータブル 2』、やっと最後の緊急クエストクリアできたぞ!」
凪が、まるで子供のように目を輝かせて、カバンからPSPを取り出した。
和也は少し驚いて凪の方を向いた。
凪の表情からは、あの頃の無邪気な凪が戻っていた。
「お、マジか! あそこ、ソロやとかなり苦戦するはずやろ。お前、ようクリアしたな」
凪は照れくさそうに頭をかいた。
「いや、かなり時間かかったよ。
でも、やってる間は何もかも忘れて熱中できたから…なんか、久しぶりに心から楽しかった気がする」
凪はそう言って、英理への想いや、先日のすれ違いに対する苦悩も、彼なりの方法で消化しようとしているのかもしれない、と和也は感じた。
「そうか。それは良かった」




