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凪の坂道  作者: 凪葉
第一章 高校生編

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第52話 【狂った歯車を巻き戻すために】

(あかん。言葉が、届かん。

二人とも、相手に何かを伝える余裕なんて残ってないんや)


ナオは表情を完全に強張らせたまま、和也の袖を強く引いた。


「和也くん。あかん、凪くんちょっと頼むわ」


「あんた、とにかく凪くんを連れて、自分らの席に一旦戻って。お願いやけん、早く!」


和也はただ無言でナオの指示に従うしかなかった。


「お、おう。分かった」


和也は凪の肩に手をかけ。


「行くぞ、凪。戻るぞ」


その一瞬、英理と凪の視線が最後に空中で縺れ、そしてプツリと切れた。


「…あ」


英理が小さく声を漏らす。


(凪くんは、和也くんがなんとかして。次は、こっち)


ナオは拳を強く握りしめる。


(英理を何とかせなあかん。この爆弾処理、うちが終わらせるしかないんよ)



和也に肩を支えられながら、凪はふらふらと自分たちの席へと戻った。


『彼氏ばい』という裕介の声。


(英理には、学校で彼氏がおったんと)


「おい、凪。お前、大丈夫か? さっきから顔色が」


「和也。ごめん、俺…ちょっと調子悪いわ。先に帰る」


「は? おい、凪!」


和也が引き止める間もなく、ただ、一刻も早くこの場から逃げ出したいという一心で、フラフラと出口の方へ足を進めた。


「おい、待てって!」


残された和也は、出口を見つめたまま呆然と立ち尽くす。


「…なんなんよ、一体…」



ナオはレジ前で呆然と立ち尽くす英理の腕をしっかりと掴み、自分たちの席へと導いた。


英理の足取りは重く、魂が抜けたような状態で席に着くと、


長門が驚いたように立ち上がる。


「ナオ? 英理、どうしたん?」


「長門くん、ごめん。今日、本当にごめん」


ナオは一度言葉を切ると、視線を少しだけ英理に向け、また長門に戻した。


「詳しい理由は、明日絶対ちゃんと話すけん。お願い、今は聞かんで。今日は、この子と二人きりにしてほしいんよ」


「あんたたち二人も、今はもう帰って。本当に、頼むけん」…。


「…英理。もういいよ、我慢せんでええよ」


その一言がトリガーだったかのように、英理の目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。


「英理、和也くんのところへ行こう。凪くんもまだ一緒におるはずよ」


「ちゃんと話さなきゃダメよ。今のままだと、凪くんの中で『英理には彼氏がおる』っていう誤解が確定してしまうわ。」


ナオの言葉に、英理も必死に頷く。


「うん。凪くに、ちゃんと伝えたい。今の状況も、ちゃんと説明すれば、きっと分かってくれるよね?」…



和也は、やってきたナオと英理を見て、眉間に深い皺を寄せた。


「英理、ナオ。お前ら、何しに来た。凪ならさっき、『調子が悪い』言うて帰ったぞ!」


「…帰った…?」


英理の唇が小刻みに震える。


ナオは和也の言葉を聞いた瞬間、


「…嘘やろ…」


和也は、呆然と立ち尽くす二人を交互に見つめ、苛立ちと困惑を露わにし、


「で、一体何があったんや。お前ら、さっきの『彼氏』だの何だのと、さっきから訳がわからん」


和也は冷めた目で英理を見つめ。


「学校で彼氏でも作ったんか。まぁ、誰と付き合おうがお前の自由やけど。

まさか、さっきレジで後ろからうるさく詰め寄ってきたカップルが、英理だったとはな。」


和也は少し呆れたように肩をすくめ、さらに言葉を重ねようとした。


「和也くん!」


和也が最後まで言い切る前に、ナオの鋭い声がテーブルを叩くように響く。


「今はそんなこと言っとる場合やないんよ。

英理の説教なんて、後でいくらでもできるやろ。

今は、凪くんがどれだけ傷ついて帰ってしまったか、それが一番の問題なんよ!」


ナオの剣幕に、和也は言葉を詰まらせる。


「…分かっとるわ」


「和也くん、お願い。今は英理を責めんで。あの子、今にも壊れそうなんよ」


和也は一度、苛立たしげに髪をかき上げる。


「二人とも、とりあえず座れ」


和也は椅子の背を引いて、二人に座るよう促す。


「何があったのか、全部話してくれ。裕介とやらの言動、…全部だ」


ナオは、今日起きた出来事、ダブルデートという状況、裕介が思わず見栄を張ってしまったこと、


「英理も、凪くんも、お互いを大切に想っとった。

それなのに、裕介くんの不用意な一言が、タイミング悪く…全部、狂わせてしまったんよ。」


ナオの声には悲痛な響きが混じっていた。

英理は何も言えず、ただテーブルに落ちる自分の影を見つめている。


「そうか。お前ら、そんな状況やったんか」


「英理、お前も自分の中でいっぱいいっぱいやったんやな。ごめん、状況も知らんと。」


英理は驚いたように顔を上げた。


「周りがゴチャゴチャ言うより、お前の言葉が一番凪に届くはずやろ。あいつだって、お前自身から何かを聞きたいはずなんや」


そう言ってから、和也は隣に座るナオに向き直った。


「ナオ、お願いがある。

話し合いの場は、俺が何とかセッティングする。

ただ、当日お前も英理と一緒に立ち会ってくれんか。

二人が変に拗れたり、間違った方向に行かんように、お前が見ててやってほしい」


和也は、少しだけ照れくさそうに頭をかいた。


「なんせ、凪も英理も揃いも揃って不器用やからな。

俺が一人で介入しても、空回りしそうで自信がないんよ」


「分かった。うちでよければ、絶対に見届ける。二人をちゃんと繋ぎ直したいけん」


「とにかく、明日の放課後。

俺が喫茶『たんぽぽ』に凪を誘ってみる。あいつ、今は殻に閉じこもっとるやろうけど…なんとか連れ出す」


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