↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/176

第51話 【一線を超えた口滑り】

(いや、幻じゃない。本物ばい。凪くんが、居る)


「おい、英理。お前、来とったんか」


凪の隣にいた和也が、いつもの調子でひょっこりと顔を出した。


「お前ら、さっきから後ろでちょっとうるさかったぞ。うちら急かされとるんかと思って気まずかったわ。なぁ、凪?」


そう言って凪の肩を叩く和也。


しかし、当の英理は目の前の凪と視線を合わせたまま、完全に固まっていた。


(いや和也くん、何普通にいつもの兄妹の会話始めとるとよーっ!?)


英理の隣で状況を飲み込めていない裕介が、英理の肩をポンと叩いた。


「おい英理、どうしたん? そんなに硬くなって」


和也はきょとんとした顔で、裕介の方を向く。


「えっ。お前、英理の友達か?」


裕介は、ダブルデートのような空気に浮かれた勢いのまま、つい見栄を張った。


「あ、ああ。まあ、そんな感じっすね」


裕介はニヤリと口角を上げると、堂々と胸を張った。


「英理ん彼氏ばい」


その言葉が、レジカウンター前の空気に突き刺さった。


「…………へ?」


和也はポカンと口を開け、英理は顔面蒼白のまま時が止まる。

凪は頭の中が完全にショートして、火花が散ったような表情を浮かべた。


ナオは絶望した。


(あ、あ、あああ……っ!!!)


(何言っとんとよ、そのバカ男ーっ!!! 誰に向かって『彼氏』って言うとっと!! これが英理のお兄ちゃんって分かって言うとっとか!? それに凪くんの前で……凪くんの前で何てことを!!)


「で、あんたたちはどちら様すか? 英理の知り合い?」


和也は、さっきまでののんきな表情から一変、眉間にシワを寄せた。


「は? 俺は英理の兄ですけど」


「えっ……」


裕介が呆然と声を漏らす。


その横で、ナオは膝から崩れ落ちそうになりながら、心の中で頭を抱えた。


(終わった。完全に、終わった……!)


(お兄ちゃんの前で『彼氏』って自己紹介するなんて裕介、和也くんの目が、今めちゃくちゃ殺気立っとるけん!!)


一方、凪は目の前にいるのが紛れもなく英理だということを、ようやく認識していた。

そして、彼女の隣には「彼氏」を名乗る男がいる。


凪は、目の前の現実を受け止めるだけで精一杯だった。


「……あ、ああ……」


(英理が……目の前におる。でも、俺の知らん人と一緒に。彼氏?)


英理のことを想う余裕も、周りを見渡す冷静さも、今の凪にはなかった。

その凪の虚ろな表情を見て、ナオは息を呑んだ。


(凪くん!?)


ナオには、凪が今にも崩れてしまいそうに見えた。


(アカン、凪くん、完全に誤解しとる……! このままじゃ、本当に何もかも終わってしまう!!)


「英理さん……いたの」


それが、凪に出せる精一杯だった。


その声を聞いた英理もまた、極限状態だった。

自分を呼ぶ凪の声が、あまりにも掠れて、壊れそうなほど震えている。


(凪くん……?)


「……え、うん」


その一言が、二人の喉から絞り出される。

これ以上の会話は、二人には不可能だった。


すぐ近くで見守るナオは、今にも崩れそうなこの状況をどう立て直せばいいのか、必死に考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。