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凪の坂道  作者: 凪葉
第一章 高校生編
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第50話 【交差する現実逃避】

(ちょっと待て、アカン!! 英理、それだけは絶対にアカンって!!!)


ナオの脳内で、緊急警報が鳴り響く。


「あ、英理っ! ちょっと待って! 注文なら長門くんに頼むとか、うちが行くけん、」


「いいのいいの! ナオ、心配してくれてありがと! 今日はチートデーやけん、ダイエットのことは気にせんと開き直って食べるって決めたとよ! 裕介くん、待ってー!」


「お、おう、しっかり食おうや!」


そう言って、お互いに笑い合いながら楽しげに進む英理と裕介。


その視線の先、レジの列のすぐそこには、同じく並ぼうとしている凪の後ろ姿があった。


「…あ」


隣の長門が

「ナオ? 顔色真っ青だけど、どうしたん?」

と心配そうに顔を覗き込んでいる、


(…終わったばい。完全に、最悪の結末や…)


ナオはゆっくりと天を仰いだ。



先にレジカウンターへと到着した和也と凪は、カウンターの前に立ち、少し上を見上げながらメニューを選び始めた。


その後ろに、まだ二人の存在に全く気づいていない英理と裕介が並ぶ。


(もうこうなったら、うちが盾になるしかない!)


ナオは「これは駄目ばい!」とガタッと席を立ち、猛烈なダッシュで英理と裕介のすぐ後ろにピタリと並んだ。


もし凪と和也が不意に振り向いた時、少しでも英理の姿を隠すか、あるいはその場で言い訳をぶちかまして最悪の事態を阻止する、非常事態シフトをとる。


和也と凪は、周りを見渡せば、男女のグループが楽しそうに笑い声を響かせて盛り上がっている。


「なんか今日、うちら場違いじゃなかったかね?」


「ほうかもね」


すると、凪が、ポツリと呟やく。


「和也、俺やっぱ、てりたまやめてビッグマックにしよかな…迷ってきたわ」


「えぇ? ここまで来て変えるん?」


そのすぐ後ろで並んでいた、裕介が、じりじりとした空気感を凪たちの背中に向け始める。


「あー、はよてりたま食べたいな。前のやつら、何迷っとっとやろ」


裕介は少し苛立ち気味に、前の二人の背中へ無言のプレッシャーをかける。


「あはは、裕介くん食いしん坊やね! でも、うちも早く食べたい!」


「おい、てりたま売り切れたりせんよな?」


「そんなわけないやん!」


その声と、背後から突き刺さる「早く注文しろよ」という無言のプレッシャーを、凪と和也はビンビンに感じる。


(あんたら何言っとっとよ…!!)


すぐ後ろに張り付いていたナオは心の中で猛烈に叫ぶ。


(英理、あんた目の前におる人が誰か分かっとっと!? 自分の実のお兄ちゃんと、あんたが大好きな人(凪くん)ばい!! よりによってその二人に『早く注文しろ』って、二人して無言のプレッシャーかけとるとよ、)


「和也、もう先に、後ろのうるさいカップルに選んでもらおうや。俺まだ迷ってるし」


和也も「そうやな」


「後ろのバカカップルがさっきからうるさいけん、そうしようや」


凪は意を決して、後ろのペアに順番を譲るために、ゆっくりと振り返り。


「すいません、僕らまだ決まってへんので、先にどうぞ!」


「よっしゃ! 英理、はよてりたま注文せんと売り切れんぞ! マックフルーリーやろ!?」


「うん、そう!」


裕介と英理は、振り返った凪と和也の二人を「あ、すいませーん」と強引にかき分け、そのままカウンターの前へとぐいっと割り込む。


その瞬間。


カウンターの真ん前で、英理と凪の視線が、至近距離でバチィッと真っ正面から交差する。


「…え?」

「…あ」


時間が止まったかのように、二人の動きが完全にフリーズ。


「え、あ…あ、英理?」


あまりの衝撃に、凪の口から思わずその名前がこぼれ落ちた。


(いや、ちゃう。ちゃうわ! あんなに上品で優しい英理が、さっきから後ろで『はよしろ』ってガンガンにプレッシャーかけてきてた、このうるさいバカカップルの女の子なわけがない…!!)


凪が現実を認められず激しく脳内パニックを起こしている、まさにその時。


隣の裕介が、全く空気を読まずに声を張り上げた。


「おい、英理! マックフルーリーとポテトでええんよね!?」


さらに、英理を自分の方へ引き寄せるようにして、凪を胡散臭そうに見つめ返す。


「なんすか? 目の前のこの人が、どうかしたと?」


裕介の口からハッキリと放たれた「英理」という名前。


凪はすがるような、けれど怯えるような目で、目の前の少女を見つめる。


「…あの、またぁ、英理さん…ですか?」


すぐ後ろに張り付いていたナオは、あまりの恐怖に血の気が引きすぎて、幽体離脱しそうなほどの衝撃を受けていた。


(ちょ、裕介ーーーっ!!! 特大の燃料投下すな!!! バカ、大バカ!!! なんでそこで『英理』って大声で呼ぶとよ!! しかも凪くんも凪くんで、何が『またぁ、英理さんですか?』よ!! パニくりすぎて敬語混じりのわけわからん日本語になっとるばい!!!)


ナオは心の中で髪の毛をむしり取りたい衝動に駆られていた。


裕介の無自覚な一言と、凪の限界突破した混乱。


「…え、あ…」

凪から「英理さんですか?」と問いかけられた英理は、完全に金縛りにあったように動けない。


目の前にいるのは、紛れもなく凪だ。


しかし、今の英理のキャパシティは完全に限界を迎えた。


(え…? なんで? なんで凪くんがここに居ると…?)


(だって…うちからのマックのお誘い、『用事があるけん無理』って断った凪くんが、ここに居るわけないやん!!)


しかも自分は今、裕介と「楽しそうな男女ペア」として肩を並べている、


(いや、違う。違うわ! )


英理の脳内でも、凪と全く同じ「強力な現実拒否」

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