第45話 【ナオの初デートは!】
4時間目のチャイムが鳴り響き、待ちに待った昼休み。
約束通り、ナオと英理は教室の机をくっつけてお弁当を広げていた。そこへ、少し緊張した面持ちの長門が「お疲れ、ナオ」と自分の弁当箱を持ってやってきて、3人での昼休みがスタートした。
英理は二人を見て
「うわ~、本物のカップルが目の前におる!」
と、朝の寂しさも忘れて大興奮。
教室の片隅は、和やかで少し甘酸っぱい空気に包まれていた。
お弁当も終盤に差し掛かった頃、英理が思い出したようにポンと手を叩いた。
「あ、そうだナオ! 今日の放課後さ、一緒にマック行かん? 新作のてりたまバーガー出たらしいっちゃん! ずっと食べたくてさ~!」
英理は「行こ行こ!」と言わんばかりに目を輝かせてナオに詰め寄る。
「えっ英理、凪くんと行かんの?」
英理は少し気まずそうに視線を落とし。
「あー、実はね、昨日のことお詫びしたくてメールで誘ってみたとよ。
そしたら『今日は大事な用事がある』って断られちゃってさ…」
英理はぽつりと呟き、一瞬だけ悲しそうにしゅんとした。
「だからナオを誘ったんよ! 二人でてりたま食べてパーッとやろうやって!」
しかし、その言葉が出た瞬間。
ナオと長門の動きが、同時にピタッと止まった。
「え…マック?」
ナオは手に持っていた箸を止めた。
長門は長門で、気まずそうに頬をポリポリとかいている。
(あ。そういえば今日、放課後に長門くんと二人でマック行く約束しとった!)
昨日、付き合って初めてのデート(のようなもの)として、二人でこっそり約束していた。
気まずそうな空気を醸し出す二人の様子に、英理は首を傾げる。
「 なに二人して固まっとると? 」
英理の視線が、ナオと長門の間をせわしなく行き来する。
「あー、えっと、あのね、英理」
「実はね、今日の放課後、長門くんと二人でマック行く約束…もうしとったとよ。付き合って最初やけん、その、二人で…って」
「あ…」
ナオの言葉を聞いた瞬間、英理の顔から一瞬だけパッと灯りが消えた。
「あ、ううん! そうだったんだ!」
「ごめんごめん、私空気読めてなかったばい! 初デートみたいなもんやもんね! 二人でしっかり楽しんできて! ほら、長門くんも気まずそうな顔せんで!」
いつも通りに明るく二人を応援する英理。
けれど、無理をしているのがナオには一目で分かった。
朝、一人ぼっちになるのが寂しいと言っていた英理の顔が頭をよぎる。
「英理、ごめん…」
「ううん、全然! あ、そうだ、私ちょっと売店行ってくるね! 炭酸飲みたくなっちゃった!」
余計にバツが悪くなってしまった英理は、これ以上二人の邪魔をしてはいけないと、逃げるように立ち上がった。
「じゃ、また後でね!」
引き留める間もなく、英理はいつもの笑顔のまま、パタパタと教室を出て行ってしまった。
残されたナオと長門の間に、なんとも言えない申し訳なさとが漂う。
「…少し、寂しい思いさせちゃったかな」
隣の長門も、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「そうかもな…。神之浦さん、俺たちのこと応援してくれようとして、無理に笑っとったし」
ナオはぎゅっと自分の膝の上で手を握りしめると、意を決したように長門の方を真っ直ぐに見つめた。
「あのね、長門くん。付き合って初めてのデートなのに、うちからこんなこと言うの、本当に申し訳ないとだけど…。
今日のマック、英理も誘ってもええかな?」
長門は全く嫌な顔をせず、すぐに優しく微笑む。
「おう、全然ええよ! 俺はナオと一緒ならどこでも、誰とでも楽しいけん。神之浦さんも昨日からずっと俺たちのこと心配してくれとったし、一緒に『てりたま』食おうや」
「長門くん…! ありがとう!」
しかし、ナオはすぐに少し困ったような顔をして、小さくため息をつく。
「…でもなぁ。英理のやつ、一回ああやって引っ込んじゃったら、うちらに気を使って頑なに断ると思うんよ。『二人の邪魔したら悪いけん!』って、絶対無理してでも遠慮するやろ」
「あー……。確かに、神之浦さんの性格ならそう言いそうだな」
長門も納得したように腕を組んだ。
誘いたい気持ちは山々だが、どうすれば英理が無理せず”、素直に「行く!」と言ってくれるか、頭を悩ませ始めた。




