第44話 【今日の昼休みから私は1人?】
次の日の朝、三原高校の教室。
ナオは登校するなり、自分の席にカバンを置いてすぐに英理の席へと向かった。
「英理。おはよう」
「あ、ナオ、おはよって、わっ! 顔赤い!」
「昨日は、その、途中で置いてけぼりにしちゃって、本当にごめん。
でも、ちゃんと報告しとこうと思って。うち、長門くんと付き合うことになったけん」
それを聞いた瞬間、英理の表情がパッと輝いた。
昨日、一人で体育館横に取り残されたことへの文句なんて、最初から言うつもりは微塵もなかった。
「ナオっ!!」
「よかった! 本当によかったね、ナオ!!」
大好きな親友が素敵な恋を実らせたことが嬉しくてたまらない。
「うん。ありがとう、英理」
「いーなー、ナオ。彼氏ができたんやね。なんか、一気に大人っぽく見えるわ」
ナオはくすくすと笑いながら、今度はからかうように小突いた。
「何言いよるとよ。あんたに羨ましがられる筋合いはないやろ。
あんたにだって、凪くんがおるやん。いつも一緒にいるとやけん」
「あ、そうそう! 私には凪くんがおるわ!」
ナオの言葉に、英理はポンと手を叩いて納得する。
そうだ、自分には凪がいる。
いつも隣にいて、自分の突拍子もない行動にも呆れながら付き合ってくれる、大切な凪が。
英理は「ふふん」と胸を張る。
「なぁ、ナオ……。昼ごはんとか、やっぱり長門くんと食べるん?」
ふと、英理が少しトーンを落とした声で尋ねる。
どこか寂しげに上目遣いでナオを見つめてくる。
「えっ!? そ、そんなんまだ決めとらんけど。なんで?」
英理は机に突っ伏して、唇を少し尖らせながら本音を漏らす。
「だってナオに彼氏ができたのは、私もしゃーなし、じゃなくて自分のことみたいにめちゃくちゃ嬉しいんよ?
『彼女と彼氏』って響き、本当にキラキラしとって、うわぁ、いいなぁ! って憧れるし!」
「でも、それって、今日の昼休みから私は1人でご飯食べるんかなぁって思ったら、急に寂しくなってきてから」
そんな英理の素直な寂しさを聞いて、ナオはハッと目を見開いた。
「バカ言わんでよ。うちが、英理を置いてどっか行くわけないやろ。
長門くんと食べる時があったとしても、英理も一緒じゃなきゃ、うちが寂しいわ」
「ナオっ!」
「やけん、今日も普通に一緒に食べるよ。ほら、そんな悲壮感漂う顔せんといて」
英理はすぐに現金な笑顔を取り戻し、「やっぱりナオは最高の相棒ばい!」と抱きつこうとしたが。
…ナオに「近い!」と押し返された。
「おい、見ろよ、朝からまた神之浦さんとナオがイチャイチャしとる」
教室の入り口近くで、男子生徒数人が、ナオに抱きつこうとして押し返されている英理の姿をじっと見つめていた。
「いいなぁ。俺も神之浦さんに、あんな風に全力で抱きつかれてぇ」
「お前だったら、抱きつかれる前にナオにドロップキック喰らうわ」
「分かっとるけどさ! でも、ぶっちゃけ羨ましすぎん?」
毎日のようにあんな距離感でベタベタと甘えている相手がナオなのだ。
「なぁ、どうやったら神之浦さんとあそこまで仲良くなれるん?
俺が話しかけても、いっつも『おはよー!』って元気よく挨拶されて、それだけで終わるんだけど…」
「距離の詰め方が分からんよな。やっぱ、ナオみたいにちょっとサバサバしとる方が、神之浦さんも懐きやすいんかね」
一人の男子が、真剣な顔で顎に手を当てる。
「じゃあ俺、今日からナオを見習って、ちょっとクール系男子でいってみるわ」
「お前がやったら、ただ機嫌が悪いやつだろ。
それより、あそこに入る隙が1ミリもないのが絶望的だわ」
男子たちは、ナオを全力で追いかけ回している英理の後ろ姿を遠い目で見つめながら、深いため息をつく。
「はぁ。ナオになりてぇなぁ」




