第43話 【キューピッド】
放課後の体育館横。
ナオと長門は、少し距離を空けて向かい合っていた。
その二人のすぐ横、数十センチしか離れていない場所には、当然のように英理がいる。
英理は黙ったまま、じっと二人を見ていた。
(近っ……! なんで真横におるんよ!)
ナオはたまらず、長門を制した。
「あ、ちょっと待って! 長門くん、一回ストップ!」
「えっ? あ、うん、わかった」
「ちょっと英理! なんでそこに普通に混ざっとるんよ! キューピッドは普通、物陰から見守るもんやろ!」
「ええっ? だって最後まで見届けんと!」
「見届けんでええわ!」
「もう、お願いやけん、あっちの柱の陰に隠れといて!」
「え〜、つまんないの」
名残惜しそうにしながらも、英理はようやく少し離れた柱の陰へ移動した。
そして、そこから二人に向かって小さくガッツポーズをする。
「はぁ……ごめんね、長門くん」
「ううん、ええよ。なんか緊張ほぐれたわ」
「……そう?」
「うん。英理がおると、なんか変に力入らんし」
「それはそれで複雑なんやけど……」
ナオは柱の陰をちらっと睨んだ。
英理は気にする様子もなく、両手を握って応援している。
ナオは小さく息を吐くと、改めて長門に向き直った。
「……長門くん」
「う、うん」
「返事、ちゃんとしたかったんよ」
「この前、長門くんが言ってくれたこと……うち、めちゃくちゃ嬉しかった」
ナオは自分の手をぎゅっと握った。
「うち、男勝りで、口も悪くて、可愛げもないやろ?」
「でも、そんなうちのことを好きって言ってくれたのが嬉しかった」
「だから……うちも、長門くんのことをもっとちゃんと知りたいって思ったんよ」
「まだ、長門くんのことを全部分かっとるわけじゃない。でも、これから一緒におったら、少しずつ分かっていける気がする」
ナオは照れを隠すように、ほんの少しだけ笑った。
「……やけん、うちで良ければ、よろしくお願いします!」
言い切ると、ナオは勢いよく頭を下げた。
柱の陰では、英理が両手で口を押さえている。
(ちょっ……! 私、入るタイミング完全に逃したよね!? ここからどうやって割って入ればいいとよ!)
英理が頭を抱えている間に、長門はナオを見つめた。
「ナオ、ありがとう」
「俺も、ナオのことが好きやから」
「これから、よろしくな」
「……うん。こちらこそ、よろしく」
二人の間に、少しだけ照れた沈黙が落ちる。
やがて長門が、ぽつりと言った。
「今から……一緒に帰らん?」
「荷物、教室に取りに行ってからでええけん」
「うん。一緒に帰る」
ナオは小さく頷いた。
長門が歩き出すと、ナオもその隣に並ぶ。
二人はそのまま、夕暮れの校舎へ向かって歩いていった。
わずか数秒後。
「え、ちょっと?」
柱の陰から、英理がおそるおそる顔を出す。
その視線の先には、もう二人の姿はなかった。
「……置いていかれたと?」
広い敷地にポツンと取り残された英理は、しばらくその場に立ち尽くしていた。




