第42話 【彼氏の前の段階なの】
朝のホームルーム前。
昨日の放課後のぐだぐだを思い出して、ナオは早くも胃が痛くなっていた。
そこへ、英理がニヤニヤと顔を寄せてくる。
「ナオぉ〜」
「な、なに……? 英理、朝からそんな顔で見ないでよ」
「あんた、いつの間に彼氏なんかできとったとよ? どこの人?」
「っ……! ちょっと英理、声が大きいって!」
「いいから教えてよ。私に隠しとったんやろ?」
「彼氏って言うか、その前の段階というか。この間、勢いで言ってしまっただけで……」
ナオが気まずそうに目を泳がせる。
「一週間くらい前、下駄箱で長門くんに告白されてさ」
「えっ、そ、その、今斜め前に座っとる……あの人!?」
「でも、まだ返事はしてなくて。だから『彼氏』って言ったのは、凪への見栄っていうか、口が滑っただけやけん!」
しどろもどろな説明を聞いていた英理は、ふっと表情を引き締めた。
「でね、ナオ。長門くんのこと、本当はどう思っとると?」
「分からん。でも、少しだけ向き合ってみようかなって」
「うん。ナオがそう言うなら、私、全力で応援するけん!」
「いつ、長門くんに返事するの?」
「ちょっ、そんな急かさんといてよ! まだ心の準備もできとらん!」
「だって長門くん待っとるよ? もう一分一秒でも早く返事がほしいって思っとるはずやもん」
「そんなこと言わないでよ。ただでさえ恥ずかしいのに……」
英理は頼もしげにナオの背中を叩いた。
「私、長門くんのことどこかへ連れ出しといてあげるよ。二人で話せるやん。恋のキューピッドってやつ?」
「本当、お節介な親友だね、あんたは」
ナオはくすりと笑い、少しだけ肩の力を抜いた。
「分かったよ。放課後、長門くんにちゃんと話してみる。あんたには負けたわ」
「よっしゃ! 任せとき!」
♢
四時間目のチャイムが鳴ると同時に、英理は席を立ち、斜め前の長門の机の横へしゃがみ込む。
「長門くん。放課後、体育館の横でナオが待っとるけんね。絶対に行ってあげてよ」
「えっ……!?」
「私、ええことしたよね!」
英理は口元に人差し指を当ててウインクすると、自分の席へ戻っていく。
その後ろで、ナオは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
(あのお調子者……! 勝手に場所まで指定してアポ取ってからに!)
「ごめん、長門くん。英理が勝手に暴走しとるだけやけん、放課後のやつ、気にせんで……」
「いや、嫌なわけないやん。むしろ、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「やけん、俺、放課後、体育館の横で待っとるから」
ナオは言葉を詰まらせ、今度こそ限界を迎えたように、再び机に顔をうずめて動かなくなった。
その横で、英理は「作戦大成功」と言わんばかりの顔で、ニヤニヤと二人を見つめていた。




