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凪の坂道  作者: 凪葉
第一章 高校生編

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第42話 【彼氏の前の段階なの】

翌日の三原高校。


朝のホームルーム前、英理は悪戯っぽく瞳を細めて探るような視線を向けると、机に両手をついてじーっとナオの顔を覗き込んだ。


「ナオぉ〜」


「な、なに…? 英理、朝からそんな顔で見ないでよ」


ナオは昨日のあの後、凪の爆弾発言について誤解を解くため英理に詳しく説明していた事を思い浮かべる。


英理はニヤニヤとした笑みを深め、逃がさないと言わんばかりに距離を詰める。


「あんた、いつの間に彼氏なんかできとったとよ? どこの人? 一体どこで出会ったと!?」


「っ…! ちょ、ちょっと英理、声が大きいって!」


「いいから教えてよ! あんた、私には隠し事してたんやろ? ほら、どこの人なん?」


「実はね…彼氏がおると言うか、その前の段階というか。

この間、ちょっと勢い余って凪に『彼氏がおる』って言ってしまったとだけど」


ナオは気まずそうにぽつりぽつりと親友に打ち明け始める。


「実はね、一週間くらい前、駄箱で長門くんから告白されたんよ」


英理はハット小声になり

「えっ、そその、今斜め前に座っている…あぁ人!?」


ナオ申し訳なさそうに言葉を続ける。


「でも、まだ返事はしてなくて。

だから『彼氏』って言ったのは凪への見栄というか、勢いで口が滑ってしまったとよね。」


ナオのしどろもどろな説明を黙って聞いていた英理は、急に真剣な表情になる。


「でね、ナオ。長門くんのこと、本当はどう思っとると?」


天然な彼女なりの、精一杯の寄り添いだった。


「分からん。でも少しだけ、向き合ってみようかなって、そう思った」


「うん。ナオがそう言うなら、私、全力で応援するけんね!」


「で、ナオ! いつ長門くんに返事すると!?」


英理は先ほどまでのしみじみとした雰囲気から一転、今の彼女は

「親友の恋愛を成就させる作戦本部」

の指揮官になった。


「ちょっ! あんた、そんな急かさんといてよ! まだ心の準備もできとらんのやけん!」


「だって、長門くん待っとるよ? 長門くん、ナオのことめっちゃ好きなんやろ! 私が長門くんだったら、もう一分一秒でも早く返事がほしいなぁって思うばってん?」


「あんた、そんなこと言わんでよ。ただでさえ恥ずかしいのに」


英理はそんなナオの背中を、まるで頼もしい相棒のようにポンポンと優しく叩いた。


「私が長門くんのこと、どこかへ連れ出しといてあげるよ! そしたら二人で話せるやん。ナオのために、私、一肌脱ぐよ! 恋のキューピッドってやつ?」


「本当、お節介な親友だね、あんたは」


ナオはくすりと笑い、ようやく少しだけ余裕のある表情を見せる。


「分かったよ。放課後長門くんに、ちゃんと話してみる。あんたには、負けたわ」


「よっしゃ! 任せとき!」


4時間目の終了のチャイムがなると。

英理は席を立った。

今の英理の頭の中は、


「大好きな親友の恋を私が絶対にくっつけてあげるっちゃん!」


という使命感と、初めての“恋のキューピッド”という大役にワクワクが止まらない。

英理は楽しそうに目を輝かせながら、素早い動きで斜め前の席の長門へと近づく。

そして、長門のすぐ横にしゃがみ込むと、絶対に聞き逃させないくらいの小さな声で囁いた。


「長門くん。放課後、体育館の横でナオが待っとるけんね! 絶対に行ってあげてよ!」


「えっ!?」


長門は驚きのあまりガタッと椅子を鳴らし、目を丸くして英理を見た。


「私、ええことしたよね!?」


満足げに胸を張った英理は、人差し指を口元に当てて「シーッ」とウインクしてみせると、自分の席へと戻っていった。


その様子を後ろからハラハラしながら見ていたナオは、あまりの暴走っぷりに顔から火が出そうだった。


(あのお調子者! キューピッドになりたいけんって、勝手に場所まで指定してアポ取ってからに!)


ナオは真っ赤になった顔を隠すように両手で覆い、机に突っ伏した。


一方の長門も、突然舞い込んできた「放課後」の約束、

英理のあのノリノリの様子からナオの気持ちが前向きなのだと察した。

長門はチラリと後ろのナオの様子を伺った。


ナオは申し訳なさそうに長門へ歩み寄り、声をひそめながら消え入りそうな声で謝った。


「ごめん、長門くん。英理が勝手に、あんなっ」


「うち、 英理が、その完全にキューピッド気取りで暴走しとるだけやけん。もし嫌なら、放課後のやつ、気にせんでええからね?」


「いや、嫌なわけないやん。むしろ、めちゃくちゃ嬉しいよ」


長門は少し照れくさそうに頭をかく、


「やけん、俺、放課後、体育館の横で待っとるけん」


ナオは「っ…!」と言葉を詰まらせ、今度こそ本当にキャパシティをオーバーしたように、再び机に顔を埋めてしまった。


その様子を、横で「作戦大成功!」と言わんばかりに満足げに眺めている英理。

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