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第40話 【仲間】

凪が名前を呼ぶと、英理は顔を上げた。


「ナオの顔、心配やから見せてほしい。英理、少しだけ手を離せるか?」


「少し腫れとるな。ナオ、大丈夫か? 意識はしっかりしとるか?」


凪の真剣なまなざしを見て、ナオは小さく息をつく。


「……凪くん、英理、心配かけてごめん」


ナオは痛む頬をかばいながらも、いつもの調子を取り戻そうと笑ってみせた。


「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだし。ほら、ちゃんと大丈夫だから」


ナオの言葉を聞いて、英理は「よかった……本当によかった」と小さく息を吐き、もう一度ナオを抱き寄せた。


店内にはまだ野次馬の視線が残っている。三人はその場を離れることにした。


「ナオ、英理。立てるか」


凪が立ち上がり、二人に手を差し出す。


「少し場所を変えよう。近くの公園まで行こうや」


公園のベンチは冷え切っていたが、三人は並んで腰を下ろした。

街灯の薄明かりの下、英理は隣に座るナオの左頬をじっと見つめる。

タカミの肘が直撃した場所が、うっすらと赤く腫れ上がっていた。


「ナオ、ごめんね。私のせいで……」


英理が震える指先を伸ばそうとすると、ナオは痛む頬を大げさにさすりながら笑った。


「何言ってるの、英理。全然大丈夫だって。これくらい大したことないから」


「……ナオ。さっきは、ほんまにすまんかった」


凪がまっすぐナオを見据え、低い声で続ける。


「お前に怪我させて、なんて謝っていいか分からん。本当に、ごめん」


「凪くん、謝るって……真面目すぎだってば。別に凪くんが殴ったわけじゃないし」


ナオの様子を見て、凪はわずかに表情を緩ませた。


「ナオ、家まで送っていくわ」


ベンチから立ち上がりながら、凪が当たり前のように言う。


「送ってくれるのは嬉しいけどさ、あんたの家とは方向が全然違うよ。英理はいいの?」

ナオが英理をちらりと見て言った。


「俺らのせいで怪我させたのに、ナオを一人で帰すわけにはいかん」


英理は凪の横顔を見つめ、小さくうなずいた。

「……うん、分かった。凪くんが送ってくれるなら安心だし。気をつけてね、ナオ」


♢


英理を見送ったあと、凪とナオは夜道を歩き始めた。


隣を歩くナオの横顔を盗み見ようとして、ふと目が合う。凪は慌てて視線を逸らした。


「なんか、変な感じやな。こうして二人で歩くの」


凪が照れ隠しのように呟くと、ナオはクスリと笑った。


「いや、今は英理のことはええんよ」


凪の声のトーンが少し低くなる。ナオは無意識に指先をぎゅっと握りしめた。


「俺、その……ナオ」


凪が言い淀むと、ナオは先回りするように遮った。


「ちょっと待って。あんた、まさか今更、英理を裏切って私に告白するつもりじゃないでしょうね」


「はぁ、何言うとるんやバカかお前は!」


凪は思わず大きな声を上げた。


「何よ、バカとは! せっかく冗談で緊張ほぐしてあげようとしてるのに、その言い草はなんなのよ」


納得いかないとばかりに、ナオは凪の肩をバシッと叩いた。


「あんたのそういう、もどかしいところ……そういうとこが、英理との関係をいつまでも進ませないのよ」


ナオの鋭い指摘に、凪は何も言い返せない。


「……俺は、ただ」


「分かってるよ」


ナオは遮るように言った。


「あんたが誰を一番大切にしてるかくらい、私が一番分かってる。だから、そんな顔しないで。ほら、もうすぐ私の家だし」


「ナオ……」

「何よ」

「俺……」


「だから何? 言いたいことあるんでしょ」


「ナオって、たまに怖いな」


「えっ、あんた今それ言いたかったわけ?」


凪は自分の言葉の危うさに慌てて首を振った。


「ち、違うんよ! そういう意味じゃなくて、ナオのことも大事に……いや、そうじゃなくて、言い方が!」


「凪くん、今それ言い方間違えると、まんま私への告白になるよ。

言っとくけど、明日には英理に全部バラすからね。修羅場確定じゃん」


ナオはニヤニヤしながらからかっていたが、不意に肩の力を抜き、小さくため息をついた。


「それにさ……うち、実は密かに彼氏できたんだよね」


「……はっ!?」


予想外すぎる言葉に、凪は思わず足を止めた。


「お、お前……彼氏おったんか!」


「ちょっと、声が大きい! 近所迷惑でしょ!」


「英理にはまだ言わないでよ? 私の口からちゃんと話したいんだから、絶対口止めだからね」


「ま、そういうわけだから、うちにそんなに変な気使わなくていいってこと。……で? さっき言いかけた『大事』って、結局どういう意味だったわけ?」


「違うんよ! そういう恋愛とかじゃなくて! ナオは俺の中で大事……そう、英理の大切な親友っていうか、なんていうか、仲間やろ!」


「仲間ねぇ……」


「そう! 何か困ったことがあったら、俺も力になるし、お前は大切な仲間なんよ」


ナオは歩みを止め、呆れたように凪を見つめた。


「はいはい、わかったわかった。ま、あんたがそういう不器用な奴ってことね」

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