第38話 【不器用すぎる、思いの伝え方】
「…ハッ、随分と偉そうな口きくようになったな。
最近英理と仲がいいみたいで調子乗っとるようやけど、今もさも英理のこと全て知ったような口ぶりやったな。お前に英理の何がわかるんとや?」
「俺は小さい頃からずっと、英理のことを見てきたとばい。
お前と仲良くしてるからって、なに彼氏ヅラして勘違いしとるとや? 今もさっきまで、その横の女と楽しそうにベラベラ話してたやろ。
お前は結局、誰にでもいい顔するそういう奴なんやろ」
タカミは英理の方へ向き直り、勝ち誇ったような笑みを浮かべて言い放った。
「英理、よくわかったやろ? 結局こいつは、こんな風に外の女といちゃついてるような奴なんよ。俺のほうが、ずっと前から…」
「…英理。もう、隠さんでええけん」
「俺、ずっと前から英理のこと見てきたとばい。ただの幼馴染なんかで終わらせる気はなか。
あんな奴に、他のどの男にだって、お前ば渡したく無かとよ! お前は俺にとって特別な存在で…代わりのなんか、どこ探したっておるわけなかろ!?」
切迫した声が静かな店内に響き渡る。タカミは掠れた声で、懇願するように英理を見つめた。
「英理、俺がお前ば絶対に幸せにするけん、誰にも渡さんけん…っ。俺、お前のことが好きなんよ」
その言葉に、英理は息を呑んで後ずさる。
ナオも「嘘でしょ…」と絶句する。開いた口が塞がらなかった。
「和也から聞いた。まだあいつと付き合ってないんやろ?
だったらチャンスはあるってことや。英理、俺と付き合ってくれ。
あんな薄っぺらな奴より、ずっと昔からお前のことを知っとる俺のほうが、絶対にお前を幸せにできるし、大切にできるけん」
その言葉は、英理にとって告白というより、凪を否定するための宣言に聞こえた。
(タカミの気持ちは本物なんかもしれん。でも、やり方が間違っとる)
凪は、タカミの独りよがりな要求に心を乱される一方で、自分を信じてくれる英理の瞳を見つめた。
その瞳には、毅然とした意志が宿っている。
凪は静かに、小さく一度だけ頷いた。
「…分かった」
凪のその無言の頷きには、「お前が自分で決めることや。俺はそれを信じて待っとるから」という全幅の信頼が込められていた。
英理はその意図を瞬時に汲み取った。胸の奥に灯った凪からの温かい信頼が、彼女の迷いを消し去った。
英理は深呼吸をし、タカミの目をまっすぐに見据えて言った。
「タカミくん今の話、ちゃんと聞いたよ。でも、ここで話すことじゃなかよ。二人きりで、ちゃんと話そう」
そして、英理は心配そうな表情を浮かべるナオと、自分をただ信じて見守る凪の方を交互に見つめる。
「ナオ、凪くん。ごめん、私、タカミくんとちゃんと向き合って話をするけん」
英理がそう告げると、タカミは待ってましたとばかりに、「そうしてくれ。二人きりで話せば、英理も俺の気持ちが分かってくれるはずや」と口を挟んだ。
凪は英理の真っ直ぐな瞳を見て、彼女がすでに何を決意しているのかを察した。彼はナオの肩を軽く叩き、穏やかな表情で小さく頷いた。
「わかった。…英理、ちゃんと自分の気持ち、伝えてきなよ」
英理は改めてタカミと対峙した。
残された二人の間に、冷ややかな空気が流れた。英理は逃げずにタカミの視線を正面から受け止め、静かに口を開いた。
「タカミくん。ここじゃなくて、外に出よう。ちゃんと、今の気持ちを話すけん」
ミライモールの外、夕闇が迫り始めて冷たい風が吹く中で、タカミは取り乱した様子で英理の前に立ちふさがった。
「英理、お願いやけん。俺を見てくれ。凪なんかより、ずっと昔から隣におった俺を見てよ」
タカミは英理の肩に手をかけようとしたが、英理がわずかに身を引いたことで空を切った。彼は苛立ちと焦りを露わにしなら、さらに言葉を畳みかける。
「俺がどれだけ英理のことを大切に思ってるか、お前だって絶対に気づくはずなんよ。あんな奴より、俺のほうがずっとお前のことを分かってるし、大事にできるけん。それを証明させてくれ」
英理は黙ってタカミを見つめ返した。
その視線の冷たさに、タカミはさらに追い詰められたような表情を浮かべ、ついに禁断の言葉を口にした。
「…俺、このままじゃ自分がどうなるか分からんとよ。
凪の奴が視界に入るだけで、何をしてしまうか…自分でも怖いくらいなんや。英理……」
それは、英理の情に訴えかけると同時に、凪への危害をほのめかす脅しでもあった。
「…タカミくん。それが、タカミくんが私を大切にするっていうやり方なん?」
「タカミくん、ちゃんと聞いて。タカミくんとは昔からずっと一緒だったし、私のことを誰よりも知ってくれているっていうのは、本当に感謝しとるよ。
気心も分かち合えて、一番安心できる相手だった」
英理は一度言葉を切り、震えるタカミの視線から逸らさずに続けた。
「でもね、タカミくんが今求めてくれている『付き合ってほしい』っていう気持ちは、これまで私たちが積み重ねてきた関係とは、全く別のものやん。
今の私の返事は、凪くんがどうこうとか、そういうことは関係ない。
私がタカミくんのことだけをしっかり見て話すけん、最後まで聞いてほしいんと」
「私は…タカミくんと付き合うことはできん。
大切にしてくれるって言ってくれた気持ちは、本当に嬉しいよ。
でも、私がタカミくんに対して持っているのは、「幼馴染としての愛着とか、家族みたいに大切な存在っていう気持ちであって…」
「恋愛として相手を見る気持ちは、私にはないとよ」
「気持ちに応えられなくて、本当にごめん」
英理の言葉は飾りのない、ありのままの真実だった。
「これが、私の正直な気持ち。タカミくんのことは大事だし、大切だけど、それは男女として付き合うっていう意味の好きとは違うんと」




