第36話 【フタバブックス】
ナオの力強い申し出に、英理はハッとした。
(ナオがいてくれたら、凪くんとナオに話してもらっている間、私がタカミくんを説得すれば…)
英理はふっと息を吐き、少しだけ表情を落ち着かせると、タカミを真っ直ぐに見つめた。
「…わかった。じゃあ、来て。その代わり、私の用事を優先させてもらうからね」
「もちろん。英理の用事なら、俺も大事にするけん」
タカミは満面の笑みでそう答えたが、英理はその言葉の裏にある執着の重さに背筋が寒くなった。
ミライモールのフタバブックスに到着し、整然と並ぶ書棚の間を抜けてカフェコーナーへと足を進める。
タカミは周囲を見回しながら、わざとらしいほど呆れたような溜息をついた。
「なんだ、用事って本を買いに来ただけなん? それが今日の『大事な用事』やったんかよ」
英理は焦りとともに首を横に振る。
「違う、そうじゃないんと。本が目的じゃないから」
その時、視線の先に凪の姿が見えた。カフェコーナーの席で、待っている彼の背中を見つけ、英理は胸がキュッと締め付けられた。
ナオは英理の横で状況を的確に把握する。
彼女は英理の背中をポンと押し、力強い眼差しを向け。
「英理、私に任せて。凪くんには私から事情を話して、先に話し相手になっとくから。
その代わり、英理はタカミさんの話を早く切り上げて、絶対こっちに来るんよ。いい?」
ナオはタカミを牽制するようにチラリと一瞥をくれると、タカミの反応を待たずにスタスタとカフェコーナーへ歩き出した。
「ちょ、おい…!」
タカミがナオを追いかけようと一歩踏み出した瞬間、英理は勇気を振り絞ってタカミの前に立ち塞がった。
「タカミくん! 私が話したいのはここじゃないんと。…本以外の、もっと大事な話なんよ」
(一方、ナオと凪)
「そうか。英理、タカミと一緒なのか」
凪の落ち着いた反応に、ナオは少し驚きつつも続けた。
「うん。英理も困っとるみたいだし。ごめんね、せっかく二人で会う約束だったのに、またこんな形で迷惑かけて」
凪は首を横に振った。
「謝らなくていいよ。ナオ、気遣ってくれてありがとう。
俺も、学校でタカミから色々聞いてるし、事情は分かってるから。
まあ、そういうこと。じゃあ、英理の用事が終わるまで、ナオと二人で話そうか」
凪が淡々と言った言葉に、ナオは目を丸くした。
「えっ凪くん、事情知っとるの? タカミさんと直接話したの?」
ナオの問いかけに、凪は静かに首を横に振った。
「いや、あいつとは直接話してないよ。全部、和也から聞いたんだ」
凪は少し自嘲気味に笑う。
「あいつ、俺のこと目の敵にしてるからな。
和也にも『凪とはとにかく揉めるな、お前が火種になるな』って、何度も口酸っぱく念を押されてるんだ。
まあ、和也もハラハラしてるんだろうな」
その言葉に、ナオは深く納得したように頷いた。
「なるほどね。和也くんも、二人を止めるのに必死なんだね」




