第36話 【フタバブックス】
ナオの言葉に、英理は小さく頷いた。
「わかった。じゃあ、来て。その代わり、私の用事を優先させてもらうけんね」
「もちろん。英理の用事なら、俺も大事にするけん」
タカミは嬉しそうに笑った。その笑顔が、今の英理には少し怖かった。
ミライモールのフタバブックス。
三人は書棚の間を抜け、カフェコーナーへ向かった。
「なんだ、本買いに来ただけなん? それが今日の『大事な用事』やったんかよ」
「違う、そうじゃなかと。本が目的やないけん」
カフェコーナーの席に、待っている凪の背中が見えた。
隣を歩いていたナオが、英理の背中をポンと押して声を潜める。
「英理、私に任せて。凪くんには私から事情を話しとくけん。英理はタカミさんの話を早く終わらせて、絶対こっちに来るんよ」
ナオはそう言うと、さっさとカフェコーナーへ向かった。
「ちょ、おい……!」
タカミがナオを追おうとした瞬間、英理がタカミの前に回り込んだ。
「タカミくん。私が話したいのはここじゃないんと。……場所、移そ」
♢
──一方、カフェコーナー。
「そうか。英理、タカミと一緒なんやな」
凪はそう言ったものの、膝の上で握った手には少し力が入っていた。
ナオの話を聞いた凪は、黙って頷いた。
「うん、英理も困っとったけん……ごめんね、せっかく二人で会う約束やったのに邪魔して」
「謝らんでええよ。ナオ、気遣ってくれてありがとうな。俺も学校で和也から色々聞いとるから、状況は分かっとるよ」
「えっ、凪くん事情知っとると? タカミさんと直接話したの?」
ナオが尋ねると、凪は首を横に振った。
「いや、直接やないよ。全部、和也から聞いたんや」
凪は少し間を置いて、続けた。
「あいつ、俺のこと目の敵にしとるからな。和也にも『タカミと揉めるな、絶対手ぇ出すな』って、口酸っぱく言われとるんよ」
「なるほどね。和也くんも必死なんやね」




