第33話 【和也のフォローと母の機転】
タカミが青ざめて言い訳を重ねようとしたその瞬間、和也は「今しかない」と割り込んだ。
放課後、凪に奢ってもらったことを思い出し、あえて軽快で呆れたような口調を作る。
「あーあ、タカミ。お前、ほんま勘違いも甚だしいわ」
「タカミ、お前が言いたいんは『凪がモテるから、他の女子に勘違いされやすい』ってことやろ?」
「確かに、あいつ密かに女子から人気あるみたいやけど、あいつ、まじで驚くほどド級の鈍感なんよ」
和也はニヤニヤと笑いながら、固まっているタカミの目を見た。
「あいつ、頭の中が英理のことでいっぱいで、他の女子なんて一切目に入っとらんのよ。
周りの女子がどれだけ言い寄ってアピールしても、本人は『ん? 何?』って全く気づかずにスルーしとるだけや。
そういう態度が、周りから見たら『思わせぶりで罪な男』に見えとるだけやろ」
「あいつは男を弄ぶどころか、ただの不器用で一途な超鈍感野郎なんよ!」
英理の表情がパッと明るくなった。
美津子も先ほどまでの険しい顔を解き、ふっと肩の力を抜く。
「な? タカミ。お前の見当違いな心配は分かったけど、凪はそんな器用な悪党やないよ」
タカミは、何も言い返せなかった。
悔しさに奥歯を噛みしめる。
英理は安堵したように息をつき、タカミを見た。
「もう、タカミくんってば。心配してくれるのは嬉しいけど、凪くんはそんな人じゃないけん。二人とも大事な友達なんやから、今度はみんなで仲良くしようね!」
英理はそう言うと、隣に座るタカミの肩を軽く叩いた。
それまで浮かべていたタカミの笑顔が、少しずつ消えていった。
「……仲良く、か」
タカミは吐き捨てるように言った。
「英理、俺は……俺は凪なんかより、ずっと昔から、誰よりも英理のこと大事にしてきたし、これからもそうするつもりよ」
「……え?」
英理は思わず言葉を失った。隣の美津子も、ティーカップを持ったまま動きを止めている。
「凪くん『以上に』って、それ、どういうこと?」
美津子の問いかけに、タカミは答えなかった。ただ英理を見つめていた。
「タカミくん、なにを……」
英理が震える声で言いかけたとき、美津子が静かに立ち上がり、タカミの肩に手を置いた。
「タカミくん、ありがとうね。英理のことを大切に思ってくれているのは、おばさんもずっと知っとるよ。そんなふうに言ってくれて嬉しいわ。ケーキもご馳走様」
「そろそろ、お母さんも心配しとるやろ。今日はもう帰りなさい」
その言葉に、タカミは一瞬黙った。
そして、わずかに唇を噛みしめてから、肩の力を抜いた。
「……あ、すんません、おばさん」
タカミは目を伏せ、小さく息を吐いた。
「俺、ちょっと言い過ぎたわ。英理、変なこと言うて悪かったね」




