第31話 【ジュース一本で買収】
放課後の静まり返った教室。
和也は凪の隣の机に腰掛け、気まずそうに視線を泳がせた。
「なぁ、凪。昨日のことから、ずっと気になっとったんやけど」
「ん? 何が?」
「タカミのやつさ、最近やけに英理に絡みにきとるやろ。なんか、お前を置いてけぼりにしとるみたいで……悪いなと思って」
凪は窓の外から視線を戻し、和也に向かって小さく首を横に振った。
「そんなん、全く気にすることないよ。あいつらにはあいつらの距離感があるし、俺がすぐに入っていけんのは当たり前やろ」
明るく返した凪だったが、和也は周囲をちらりと伺ってから、声を一段と潜めた。
「あのな、英理のことやけど……タカミ、昔からあいつのこと特別に気に入っとったんよ。今、お前らが距離を縮めとるから、あいつも焦っとるんやと思うわ」
和也の言葉に、凪は一瞬だけ黙り込んだ。
「……なるほどな。そういうことか」
「お前、怒らんのか?」
「和也、ほんとに気にせんでええって。俺は、幼馴染だろうがなんだろうが、英理のこと……」
そこまで言って、凪は自分の口から出た言葉の重さに気づき、慌てて視線を逸らした。
「あ、いや、なんでもない! 今のは今のなし!」
動揺した凪が机を軽く叩くと、和也は吹き出した。
「おいおい凪、『誰よりも』って何やねん。おいの妹になんてこと言うとんのよ。最後まで言えや、あははは!」
「うるさい! 俺になに言わせるつもりや! もう、お前なんか知らんわ!」
顔を真っ赤にして照れ隠しに声を荒らげる凪と、腹を抱えて笑う和也。ひとしきり笑ったあと、和也はニヤリと口角を上げる。
「なぁ凪。お前とタカミの英理争奪戦……俺はどっちを応援したらええんや? 二人とも大事な友達やし、悩むわぁ」
「そんなん、好きにすればええやん。俺は気にせんで」
「ほう、強気やな」
和也はニヤリと笑った。
「でもな、タカミのやつ、今日の放課後に家で何を話すか分からんぞ。あいつ、今かなり必死やからな」
「……」
「お前が不利になりそうなら、上手いことフォローしてやることもできるんやけど……どうする?」
からかうような和也の調子に、凪は渋い顔をして立ち上がった。
「お前なぁ……そんなこと言われたら、気にならんわけないやろ」
「せやろ? さて、どっちの味方しようかなぁ」
「あーもう! いいから自販機行くぞ! お前の好きなもん奢ったるから、頼むから口利きは上手いことやってくれ!」
凪は和也の腕を引っ張ると、そのまま廊下へ連れ出した。
「ええっ、ジュース一本で買収か? 安い男やな、俺!」
「ええから黙って歩け! で、明日……タカミが何言うとったか、全部俺に報告しろよ!」
凪は半ばやけくそになりながら、小銭を投入口に突っ込んだ。




