第3話 【親友和也】
鳴滝高校西山分校の二年生の教室は、始業前の男子生徒たちの野太い笑い声に満ちていた。
そんな喧騒から少し離れた窓際の席で、和也は怪訝そうに眉をひそめた。
「凪、お前今朝なんかあったと? 制服の袖、ビリビリに破けとるし、血の滲んどるやん。
あれ、腕もバリ痛そうやね」
凪はわずかに顔をしかめ、右腕をかばうように引き寄せる。
今朝、三原の坂道で宙を舞った女の子を咄嗟に受け止め、そのままツツジの生け垣へ倒れ込んだ際の衝撃が、激しい鈍痛となって残っていた。
「あ、これな。今朝、坂でちょっとコケてな。でも、なんでもないで」
「なんでもなかことなかよ! 制服破けて血まで出てから、笑えんレベルやん。一応、保健室行っときなよ」
「大丈夫やから」
少しだけ関西なまりを入れて、凪は軽くはぐらかす。
教室の反対側では、女子たちが小さな声をひそめていた。
「見て、凪くんが和也くんと話しよる……」
「二人とも静かやけど、なんか雰囲気のあるよね」
「凪くん、腕怪我しとらん…? 心配…」
密かに女子から人気のある二人だったが、本人たちはそんな周囲の熱い視線には全く無頓着だった。
凪は少し話題を変えるように、和也に声をかける。
「あ、そういえば。昨日貸したゲームの『バイオハザード4』、どこまで進んだ?」
「ああ、あれな。
昨日の晩、めっちゃ面白くてバリやり込んでしもたわ」
二人がそんな風に静かに笑い合っていると、和也がふと思い出したように尋ねた。
「で、その坂でのやつ。お前がそんだけ血流すレベルなら、相手は怪我なかったんと?」
和也の言葉に、凪の脳裏にあの時の――ツツジの中で顔を上げ、驚いたように見開かれた英理の吸い込まれそうな瞳が鮮明によみがえる。
「あぁ。たぶん、あの子は怪我してへんよ。大丈夫やろ」
右腕の鈍痛を感じながらも、凪はどこか遠くを見るような目をしていた。
「なぁ、今度の日曜…もし良かったら、またソフトの貸し借り、せん?」
和也が少し遠慮がちに提案する。
「おう。別にええよ。お前の家か?」
「いや、駅前のロータリーでよかよ。うちは、妹がうるさかけんさ」




