第26話 【お母様ってどんな人】
昼休みの鳴滝高校の教室。
和也は凪の机の横にドカッと腰を下ろすと、ニヤニヤしながら肩を叩いてきた。
「おい凪、聞いたぞ。今日の放課後、お前ついに神之浦家に招待されたらしいな」
凪は教科書から目を離さないまま、小さく息を吐いた。
「ああ、そうや。なんか、お母さんと英理と一緒に話すことになったんやけど……」
「そうそう。そのとき俺、英理から『あんたは今日はまっすぐ家に帰ってきい』ってめちゃくちゃ念押しされたわ。
お前、ついに神之浦家の『公認』になるんか。出世したなぁ」
余裕のない凪は、声を潜めて和也の袖を引っ張った。
「和也、頼むから教えてくれ。英理のお母さんって、どんな感じの人なんや? 優しそうか? それとも、やっぱり厳しいんか?」
和也は面白がってわざと深刻な顔を作る。
「そうやな……顔はまあ、英理にそっくりやな。
今の英理をそのまま大人っぽくしたような、かなりの美人さんや」
「え、美人?」
凪が少しだけ安堵の表情を見せたその瞬間、和也はさらに畳み掛けるように、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「お前なぁ、美人だからって油断したらあかんで」
「なんでだよ」
「あの英理を育てた母さんやぞ?」
「……」
「つまり、英理の『圧』の本家本元や」
「やめろや!」
和也はわざとらしく大げさに肩をすくめる。
「あの笑顔の裏に何が隠されとるか。まあ、せいぜい頑張れよ。俺は安全な場所から、お前の安否ば祈っとくわ」
「おい、脅すなよ! ほんまにそんな怖いんか?」
凪の顔がみるみる青ざめていく。
「まあ、妹に近づく男を見る目の厳しさっちゅうもんがあるやろ。せいぜい粗相のないように気をつけるこっちゃな」
和也がからかうように笑う一方で、凪の頭の中では「もし怒らせたら」という最悪の想像が猛烈に加速していった。




