第25話 【お母様からの招待状】
学校から駅へ向かう道沿いにある、少しレトロな雰囲気の小さなカフェ。
凪はガラケーの画面を眺めながら時間を潰していると、入口の扉がカランコロンと涼やかな音を立てた。
「凪くん、お待たせ!」
制服のスカートを揺らし、少し息を切らせて英理が駆け寄ってくる。
「おう、お疲れ。全然待ってへんよ」
「えへへ、終礼終わってすぐ走ってきたと」
英理は向かいの席にちょこんと腰を下ろす。
凪はアイスコーヒー、英理はいちごミルクティ。
「一口飲む?」と英理がグラスを差し出し、凪が少し照れくさそうに目を逸らしたその時だった。
「あのね、凪くん……昨日、お母さんから『一度うちに連れてきてみらん?』って言われたんと」
「えっ?」
凪はグラスを持つ手を止めた。
英理の家、そして母親という単語が頭に浮かんだ瞬間、嬉しいはずなのに、なぜか背中に嫌な汗が流れた。
(……やばい、めちゃくちゃ緊張するやん)
「もしかして、俺なんか怒らせるようなことした?」
「してなかよ! ただのお茶やけん!」
必死に否定する英理をよそに、凪の頭の中では、早くも最悪の展開がいくつも浮かび始めていた。
『うちの娘とどういうつもりで……』なんて詰められたらどうすればいいのか。
「じゃあ決まりね! 明日の放課後、二人でうちに帰って……お茶会やね!」
「あ、そうだ。明日のそれ、和也も誘おうか?」
咄嗟に身内の「盾」を出そうとした凪だが、英理は即座に首を振った。
「だめ。和也はだめ」
「なんでだよ」
「明日はね、私と凪くん二人でうちに帰るとよ」
英理は少しだけ身を乗り出し、まっすぐ凪を見据えた。
「せっかく凪くんをお母さんに紹介するんやけん。和也がおったら、いつもの三人になっちゃうやろ?」
「……うっ」
「よろしい。じゃあ、また明日ね!」
満足そうに微笑むと、英理はストローでミルクティをひとくち飲み、軽やかな足取りで店を出て行った。
一人残された凪は、テーブルの上のアイスコーヒーを見つめながら、深いため息をひとつ落とした。
(明日、英理のお母さんと三人で向き合うとか……俺、無事に生きて帰れるやろか)




