第23話 【高田先輩そして伝説へ】
英理は、目の前に突然現れた背の高い男子生徒を見て、きょとんとナオを見上げた。
「えっと、誰ですか?」
そのあまりに素直な問いかけに、教室が一瞬にして静まり返る。
ナオは額に手を当て、深い溜息をついた。
「ほら、言ったやん。高田先輩だよ」
「高田……先輩?」
英理は首をかしげ、それから目の前の男子に向き直った。
「あの、すみません。あなたが、高田先輩ですか?」
その言葉が響いた瞬間、高田の思考が数秒ほど完全に止まった。
「……は?」
「あの、私に何かご用でしょうか?」
心底「誰なのか分かっていない」英理のまっすぐな瞳を見つめ、高田の顔からサーッと血の気が引いていく。
「え、ちょ、待てって。『誰』って……おい冗談だろ!? 冗談だよな神之浦!」
「えっと、高田先輩? お名前は聞いたことある気がするんですけど、お顔が一致してなくて……」
「は? 冗談だろ? 俺だよ、2年の高田だよ。えっ、本当にわからないのか? この顔、学校で一番目立ってるだろ俺!」
周囲の生徒たちが、さすがに気まずそうな顔で目を逸らしたり、小さく息を呑んだりしている。
「あの、本当にすみません。顔をちゃんと見たことがなくて……」
申し訳なさそうに頭を下げる英理に、高田は引きつった笑顔のまま、震える声を絞り出した。
「い、いや、いいんだよ……! 別に、俺たちの噂とか、気にしてくれてもよかったんだからな?」
しかし、高田のその必死なフォローを聞いた英理は、小首をかしげたまま、さらに首を縦に振った。
「いえ、本当に全然知らなかったので……。あの、もしかして人違いじゃないですか?」
その言葉に、高田の顔から完全に血の気が引いた。
高田は引きつった笑みのまま固まり、しばらく何も言えなかった。
何か言おうと口を開きかけたものの、結局何も言えず、そのまま無言で踵を返し早足で廊下へと消えていく。
高田の姿が見えなくなると、教室のあちこちから、どう反応していいか分からないような乾いた笑いが漏れた。
ナオはといえば、すでに笑いの限界を超えていた。
机に突っ伏したまま肩を激しく震わせ、時折「ヒッ、ヒック」と変な声を漏しながら、腹を抱えてもだえ苦しんでいる。
「あーっ、無理、笑い死ぬ……っ! 英理ちゃん、最高すぎる……!」
涙目で顔を上げたナオは、息も絶え絶えに英理の肩を叩いた。
「あんた……あの高田先輩に向かって、『人違いじゃないですか』ってトドメ刺すとか天才か……!」
「えっ? だって、本当に人違いかと思ったから……」
「スカッとしたわ。あいつ、今までどんだけ女子にチヤホヤされて調子に乗っとったと思ってんの。
それが、一番落としたかった相手に『誰ですか? 人違いじゃないですか?』って言われたんだから……!
今日のこと、一生忘れんけんね!」
「でも英理、問題は高田先輩じゃなかよ」
「え?」
「今、学校中で『英理には好きな人がおる』って噂になっとるんよ」
「……えっ?」




