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凪の坂道  作者: 凪葉
第一章 高校生編
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第23話 【高田先輩そして伝説へ】

英理は、目の前に突然現れた背の高い男子生徒に目を丸くし、キョトンとした顔でナオを見上げた。


「えっと、誰ですか?」


英理のあまりに素直で無防備な問いかけに、教室が一瞬にして静まる。


ナオは額に手を当て、深い溜息をつき。


「ほら、言ったやん。高田先輩だよ」


英理は

「高田…先輩?」と首を傾げる。


「すみません。あなたが、高田先輩ですか?」


その言葉が教室に響いた瞬間、高田の思考は完全にフリーズした。


「…は?」


「あの、私に何かご用でしょうか?」


悪気のない、どこまでも純粋で澄み渡った英理の瞳。

心底「誰なのか分かっていない」少女の眼差しに、高田の顔からサーッと血の気が引いた。


「え、ちょ、待てって! 『誰』って…おい冗談だろ!? 冗談だよな神之浦!?」


その瞬間、教室の時が止まった。


周囲の1年生たちが一斉にざわつく、


「うっそだろマジで知らねぇのかよ!」

「高田先輩、完敗じゃん」

「あれだけ学校中で噂になってて、本人に覚えられてないとか惨めすぎる」

「神之浦さん、天然すぎて先輩が可哀想になってきたわ!」

「あーあ、高田先輩、顔真っ赤だぞ。見てらんねぇ!」


「は? 神之浦、冗談だろ? 俺だよ、2年の高田だよ。

えっ、本当に分からないのか? この顔…学校で一番目立ってるだろ俺!」


完全に「公開処刑」。

男子たちは先輩を憐れみ、女子たちは冷ややかな目で「高田先輩、ちょっと痛々しい」と引き始めている。


「えっと、高田先輩? あの、お名前は聞いたことある気がするんですけど、お顔が一致してなくて…」


英理は申し訳なさそうに頭を下げ謝った。


その天然の一撃がトドメとなって、高田の自尊心は完膚なきまでに砕け散った。


ナオはもはや笑いをこらえる限界を迎え、机に突っ伏して肩を激しく震わせている。


高田は赤面と羞恥心で顔を真っ赤にし、逃げ場を失ったかのように立ち尽くしている。


「お、お顔が一致しなくて…ごめんなさい…謝られた。そんなはずはないだろ!」


高田は逃げるように廊下へと消えて行った。



周囲からは

「おいおい、嘘だろ」

「伝説の撃沈だな」と、クスクス笑う声が広がっている。


ナオはといえば、もう限界。

机に突っ伏して肩を震わせ、時折「ヒッ、ヒック」と変な声を漏らしながら、腹を抱えて笑い転げている。


「あーっ、無理、死ぬ…っ! 英理ちゃん、最高すぎる!」


ナオは涙目で顔を上げ、息も絶え絶えに英理の肩を叩いた。


「あんた! あの高田先輩に対して『あなたが高田先輩ですか?って! 」


「ええっ!? そんなつもりじゃなかったのに。だって、本当にお顔が分からなくて…」


「スカッとしたわ! あいつ、今までどんだけ女子に対して優越感に浸ってたと思ってんの。

それが、一番落としたかったあんたに『誰?』って言われたんだから。

今日という今日は、一生の笑い話にさせてもらうけんね!」

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