第21話 【佐藤くんへの返事】
翌日。
英理が教室の入り口に姿を現すと、周囲のざわめきがわずかに静まった。
自分の机に座ったままだった佐藤が、慌てて体を起こす。
「あ、神之浦さん。え、どしたと?」
英理はそのまま佐藤の席まで歩み寄り、落ち着いた瞳で彼を見つめた。
「佐藤くん、おはよう。あのね、今日の昼休み、ちょっと話したいことがあるとよ。この前の、ちゃんとしときたくてさ」
「……体育館の裏、来てもらえる? そこで話させてほしい」
佐藤は目を丸くしたが、すぐに表情を強ばらせて頷いた。
「わ、分かった。昼休みね。行くよ」
「うん、待っとるけん」
英理はそれだけ言うと、佐藤の返事を待たずに自分の席へと戻った。
♢
放課後の教室。
ナオは鞄に教科書を放り込みながら、英理を一瞥した。
「で、今日佐藤くんに返事すると? 体育館の裏で」
「うん」
ナオは小さく息をつき、それから真面目な顔で英理の肩を叩いた。
「ちゃんと自分の言葉で言うとよ。中途半端に濁すのが一番残酷やけんね」
「分かってる」
「終わったら教えて。……佐藤くんがショック受けてそうやったら、フォローは私がやっとくけん」
英理はその言葉に少しだけ目を丸くしたが、すぐに小さく頷いた。
「ありがとう、ナオ」
♢
昼休み、体育館の裏手。
音楽室から、ブラスバンドの音がかすかに聞こえてくる。
英理はコンクリートの壁に背を預け、足元の影を見つめていた。
「神之浦さん、待たせてごめん」
佐藤が足早にやってくる。英理は顔を上げ、まっすぐにその目を見た。
「佐藤くん。この前のこと、返事するね」
一度だけ息を吸い、英理は声を落とした。
「いつも優しくしてくれて、本当にありがとう。……やけど、私、ほかに好きな人おるけん。佐藤くんの気持ちには応えられん」
「中途半端にするの嫌やけん、ちゃんと言いたかった。ほんとに、ごめんね」
英理は深く頭を下げた。
「……そっか。やっぱり、そうなんやな」
佐藤は一瞬だけ寂しそうに笑った。
「でも、ちゃんと言ってくれてありがとう」
佐藤がその場を離れていく背中を見送りながら、英理の胸の奥でずっと重かった何かが、少しだけ軽くなった気がした。
佐藤にちゃんと返事をできたからだ。
それなのに――頭に浮かんだのは、昨日の凪の顔だった。




