第21話 【佐藤くんへの返事】
翌日
英理が教室の入り口に姿を現すと、周囲の空気は一瞬で変わった。
ザワついていた男子たちが息を呑み、佐藤は机に座ったまま、英理を見上げた。
「あ、神之浦さん? え、どしたと?」
英理はゆっくりと佐藤の席まで歩み寄り、静かな瞳で彼を見つめた。
「佐藤くん、おはよう。
あのね、今日の昼休み、ちょっと話があるとよ。
この前の返事、ちゃんとしときたいけん」
「体育館の横、来てもらえる? そこでちゃんと話させてほしいんと」
佐藤は驚きで目を丸くしながらも、必死に表情を取り繕って頷いた。
「わ、分かった。昼休みやね。絶対に行くけん」
「うん、待っとるけんね」
英理は最後に短くそう言うと、佐藤の返事も待たずに教室を後にした。
残された佐藤は、ただ呆然と英理が去っていった廊下を見つめていた。
(ついに、返事をもらえるとか。
英理ちゃん、一体なんて言ってくれるんやろ)
「ナオ、今日、佐藤くんに返事するとよ。体育館の横に来てもらって」
ナオは教科書を片付けながら、まるで「やっとか」と言わんばかりにニヤリと笑い。
ナオは親友の肩をポンと叩くと、少しだけ真剣な顔つきで続けた。
「英理、佐藤くんにはしっかり自分の気持ち伝えるんとよ。
中途半端なこと言って、相手に期待持たせるのが一番残酷やけんね。
その後。佐藤くんがショック受けとるかもしれんけん、その心のケアは私がちゃんとやっとくけん。安心していいよ」
英理は、ナオの言葉の端々に含まれる「当然の結果」というニュアンスに、目をパチクリとさせた。
「えっ? 佐藤くんのケアって、ナオ、私の返事の内容、もう知っとると?」
ナオは呆れたように肩をすくめ、英理の鼻先を指でつんとした。
「もー、英理ってば自分のことになるとほんと鈍感やね」
ナオはいたずらっぽく笑うと、英理の耳元で小さく囁きました。
「英理が最後に選ぶのが『あの人』やってこと、とっくに承知の上よ」
「う、うん。ありがとう、ナオ」
昼休み、体育館の裏手。
吹奏楽部の楽器の音が風に乗って微かに聞こえていた。
英理は先に着いて、コンクリートの壁に寄り添うように立っていた。
「神之浦さん、待たせてごめん。来たよ」
体育館の裏手。
英理は真っ直ぐに佐藤の目を見つめました。
「佐藤くん、この前のこと返事するね」
英理は一度深呼吸をして、誠実な口調で続けた。
「いつも優しくしてくれて、本当に感謝しとる。
ばってん、私、一番に想っとる人がおると。
だから、佐藤くんの気持ちには応えられん。
中途半端な返事したら佐藤くんに失礼やけん、ちゃんと言いたかったんと。ほんとにごめんね」
英理は静かに頭を下げた。
佐藤は一瞬、寂しそうな顔を浮かべたが、すぐに無理をして笑った。
「そっか。神之浦さんらしいね。ちゃんと断ってくれて、ありがとうな」
その言葉を聞いて、英理は心の中でずっとつかえていたものが、ようやく溶けていくのを感じた。




