第20話 【最高の特効薬】
「英理、ナオ」
「さっきは、ほんまにごめん。
俺がもっと上手く立ち回れてたら、あんな嫌な思いをさせることはなかったはずやのに」
ナオは、凪の誠実な謝罪を聞いて、ふっと表情を緩めた。
「凪くん、謝ることなんてなかよ。和也くんがあんな調子やったし、
それに、あの状況で凪くんが庇ってくれたこと、ちゃんと分かっとるけん」
ナオが気を利かせてそう言ってくれましたが、凪の視線はあくまで英理に向けられていた。
「英理…大丈夫か?」
凪は、普段の無愛想な彼からは想像もつかないほど、柔らかな声で問いかけた。
英理の瞳が揺れ、凪を見つめ返す。
「今、俺に出来ること、あったら何でも言ってや。
どんなことでもいいから、俺にさせてくれ。頼むから元気だしてや」
凪は、不器用ながらも必死に英理の視線を捉えようと。
目の前の彼女の心を救うことを優先したあまりに真っ直ぐな言葉でした。
ナオは、その隣で二人のやり取りを見ながら、
(あんた、今とんでもないこと口走ったの分かっとると?)
心の中で呟いた。
英理という「伝説の美少女」に、無条件の忠誠を誓うような言葉をかけたんやけ。
英理はその言葉に、ふと虚を突かれたように目を見開いた。
「何でも、していいと?」
英理の声は小さかったけれど、そこには確かな力が宿っている。
「ああ。俺に出来ることなら、何でもする」
「じゃあ、」
英理は、少しだけ勇気を振り絞るように、凪の袖を小さく掴んだ。
「このまま、もう少しだけ一緒におってくれる? 誰の目も気にせず、ただの『凪くん』と『私』として」
「一緒におるだけで、ええんか?」
「俺とそんなんで、ええんなら」
「おう。気が済むまで、ずっと一緒におるから。だから、もう悲しい顔すんな。元気だしてや」
英理の表情はパッと明るくなった。
(はいはい、お幸せに。やっと二人のペースになってきたね)
ナオはストローで氷をかき混ぜながら、その光景を斜め向かいからじっと観察していた。
(ほんと、見てるこっちがむず痒いわ!)
(英理は英理で、あんなに「私のこと見て!」って全身からオーラ出しとるのに、肝心なところで自信なくしてブレーキ踏むし。
かと思えば、凪の方は凪で、英理の好意に焦った挙句、あの鈍感ぶり。
そのくせ、英理が悲しむと、誰よりも早く世界を敵に回す勢いで立ち上がるやん)
(どっちもピュアすぎるのよ。駆け引きとか、テクニックとか、そういうのとは無縁の場所で、必死に心を通わせようとしとる。
見てて応援したくなるけど、同時に「早く気づけ!」って背中を小突きたくなる)
(この鈍感男が英理の気持ちにちゃんと答えられる日はくるのか。
いや、きっとその時は、凪の方があんた以上に真っ直ぐ、誰にも邪魔させんくらいの大胆な行動に出るんかもね。そんな気がするわ)
(まあ、今日はこの「ずっと一緒におる」っていう言葉だけで、英理にとっては十分すぎる特効薬になったみたいやし。
…私、心臓が持たんわ)




