第17話 【初めての紹介と、ひとつの確信】
歩道に出た凪の背中に、英理が声をかけた。
「凪くん!」
「え、英理?」
凪が、今日ここに来た理由はただ一つ。
和也から
「腹減ったやろ、マック奢るけん付き合え」と誘われたからに過なかった。
「なんで、ここにおるん?」
(そうだよね、凪くんは、和也兄ちゃんに呼ばれただけだもん。私たちがここで待ってたなんて、知るはずないよね)
緊張で胸がいっぱいになりながらも、英理は隣に立つ親友を振り返り、深呼吸をして凪に向き直る。
「あ、あのね凪くん。紹介させて。
こちら、私の親友のナオちゃん」
「はじめまして、ナオです。
英理からはいっつも話を聞いとるよ、凪くん」
ナオは少し頼もしい笑みを浮かべて、まっすぐに凪を見つめて挨拶をした。
「あ、はじめまして。凪です。」
「ほんと、どんな人かずっと気になっとったけん、今日会えて良かった」
ナオのどこか探るような、それでいてストレートな言葉に、凪は少し気圧されたように苦笑いを浮かべた。
「……なんか、変なこと言われてないか心配やな」
「えっ、言っとらんよ! 良いことしか言ってないもん!」
慌てて手を振る英理の姿を見て、凪は「冗談だよ」とふっと口元を緩めた。
(あ、この人思ってたより、ずっと雰囲気が柔らかい。でも、どこか遠くを見とるような…なるほどね)
初対面の短いやり取りの中、ナオは英理がなぜここまでこの人に心を囚われているのかを、肌で感じ取ってた。
「ごめんね、突然呼び止めて。和也兄ちゃんから…ううん、偶然、近くにおったけん、その」
「そうなん。和也のやつ、今日は妹連れてくるって一言も言わんかったわ」
凪は少し照れくさそうに、息を一つ吐き出した。
「なんというか、マクドナルド入った瞬間に和也、女の子たちに囲まれてさ。俺は邪魔者扱いで追い出されてしもた。いやー、格好悪いところ見られたな」
その凪の様子に、ナオはすかさず呆れたような、それでいてどこか面白がるような表情で割り込む。
「ほんと、神之浦兄妹は二人揃ってモテモテやねぇ! 英理も学校で男の子から告白されまくりやし、私もいつもその横で『見てるだけ』の立場よ。
…今日なんて、特に酷い状況やったしね」
ナオが皮肉を混ぜて言うと、凪は困ったように苦笑いを浮かべた。
しかし、ふと視線を英理に向けたその瞬間、凪の胸の奥で何かが弾けた。
「ほんまや。そりゃ、モテるわ」
独り言のように、ごく自然な言葉が凪の口からこぼれ落ちた。
英理はその言葉をはっきりと聞き取り、恥ずかしさに頬をさらに熱くさせながら、彼女は勇気を振り絞って凪を見つめ返した。
「だから、今日こうやって、自分の気持ちば確かめに来たとよ」
「…え?」
凪は、英理の言葉の意味をすぐには理解できず、きょとんとして瞬きをし。純粋に混乱している。
目の前で必死に恥ずかしさを隠そうと俯く英理の、あまりに初々しく可愛らしい様子に、凪の胸は締め付けられた。
(やば、可愛すぎるわ)
その二人の間に漂う、まるで二人だけの世界に包まれたような濃密な空気。
すぐ隣で一部始終を見ていたナオは、思わず小さく息を呑んだ。
(これ、ただの和也くんの友達と妹、じゃなかね)
(あぁ、なるほどね。二人とも、自分たちがどんな顔して相手を見てるのか、全然分かってないんや)
ナオは、学校で英理に熱烈なアプローチを続けている佐藤のことを思い浮かべた。
(佐藤くん、ほんとに残念やけど…)
(英理の心は、もう佐藤くんには届きそうにないね)
「…はぁ」
ナオが思わず小さく吐き出した溜息に、英理がハッとして振り返りる。
「ん? どうしたと、ナオ?」
「ううん、なんでもなかよ。ただ、ちょっとね」
ナオは苦笑いを浮かべて。
「とりあえず、場所変えん? ここ、立ち話するにはちょっと寒くなってきたし、マクドナルド戻ろ!」




