第16話 【駅前マックの騒乱と、邪魔物】
放課後、英理とナオは和也から指定された待ち合わせ場所へと急いだ。
昨晩、和也は英理にこう告げていた。
「明日、16時に駅前のマクドナルドに凪を誘って連れて行く。」
その言葉通り、二人は15時30分にはマクドナルドの店内に滑り込んだ。
「落ち着いて、英理」
「深呼吸。いい? 今日は決戦じゃないんだから。
ただ、自分の気持ちを確かめるために、凪くんとおしゃべりするだけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「ありがとう、ナオ。おってくれて、本当に良かった」
息を整える二人。その時、すぐ隣の席に座っていた他校の女子グループの会話が、ふと耳に飛び込んできた。
「ねえ、今日って? 和也くん、絶対来るよ」
「間違いないね。だって昼休みに用事あるって言ってたし、凪とマクドナルドに行くって情報聞いておいたから」
「だよねー! で、優子、あんた今日こそ和也に告るんでしょ? がんばれよ!」
その言葉を聞いた瞬間、英理はドキリとして動きを止めた。
隣で聞いていたナオも眉をひそめ、あからさまに嫌そうな顔を浮かべ。
「ねえ、あれって」
ナオが英理の耳元で小声で囁く。
「どうするん、英理。和也くん、なんか面倒くさいことになっとるみたいよ、」
告白目当ての女子たちが乱入してきたら、せっかくの、凪と自分だけのいや、ナオも含めた大切な時間が、台無しになってしまう。
「和也兄ちゃん、気づいとるんかな」
その時、隣の席の女子グループから
「あ! 来た!」
という興奮混じりの声が上がった。
店の入り口のドアが開き、和也と、その少し後ろを歩く一人の男子生徒が姿を現した。
ナオは思わず息を呑み、英理の袖をぐっと引っ張って小声で尋ねた。
「ねえ、英理。あの、和也くんの隣におる人。あの人が、そうなの?」
英理は、遠くからでも一目で分かるその横顔を見つめ、胸を強く締め付けられながら頷く。
「うん。あの人が…凪くん」
ナオは、英理がずっと心を奪われている理由を探るように、初めて見る凪の姿をじっと見つめました。
ナオは直感的に!
「なるほどね!外見は至って普通…」と親友の好みを悟る。
しかし、感心していたのも束の間。
女子グループの動きは、まるで訓練されていたかのように素早かった。
「和也くーん! お疲れ様! 今日、この後って何か予定あるん?」
先頭を切った優子という女子が、あっという間に和也の前に立ちはだかる。
彼女たちのあまりの速さと、周囲の目も憚らない強引なアプローチに、英理とナオは言葉を失い、ただ呆気にとられた。
「…えっ、あんなスピードで…」
和也は突然の囲い込みに
「何…お、お疲れ」と苦笑いしながらタジタジになっている。
和也は困ったように視線を奥の英理たちへ向け、
「おい、ちょっ悪い、今ちょっと」
と女子たちを避けようとするが、彼女たちは、「いいじゃん、ちょっとだけ!」
と聞く耳を持たない。
(ほんまに…なんなんと、…)
英理とナオは、ただ茫然と見つめることしかできない。
そして、女子グループのリーダー格らしき子が、和也の隣に立つ凪の方を向き、隠そうともしない蔑むような視線を向けてきた。
「ちょっと、そこ退いてよ。
っていうか凪くん、なんでついて来てんの?」
女子は鼻で笑うと、まるで汚い物でも追い払うかのように、しっしと手で払う仕草をしてみせた。
「見て分かんない? 今から優子が和也くんに大事な話すんの。
いっつも和也くんにまとわりついて暗い顔してさ、ホント邪魔なんだけど。雰囲気壊れるから、さっさとどこか行ってくれない?」
取り巻きの女子たちも、
「ホントそれ」
「空気読めないよねー」
「何の用があって居座ってんの?」
と、くすくす嘲笑いながら同調する。
彼女たちは、強引に凪を脇へ押しやりながら、優子を和也の目の前へと突き出そうとした。
英理は自分の耳と目を疑い。
血がスーッと引いていくのを感じた。
凪は英理にとって、どんな状況であっても変わることのない特別な存在。
自分を危険から庇ってくれた、優しくて尊い彼を、ただの「邪魔物」としてゴミのように扱うなんて。
「なっ……!」
隣で初めて凪を見たナオも、その初対面の印象を台無しにする女子たちの無礼さと残酷さに、怒りで拳を激しく震わせた。
しかし、当の凪は。
「自分には何の関係もない日常風景」
とでも言うように、冷めた瞳で淡々と受け流していた。
凪は、目の前で必死に和也にアピールする彼女たちには一瞥もくれず、和也の方を向いて静かに告げた。
「悪いな、和也。俺は行くわ。また」
「えっ、ちょっ、凪!」
和也が焦って引き止める声も耳に入れず、凪はひらりと身を翻し。
女子たちの視線も完全に無視し、店の出入り口へと向かって行った。
「あ……」
凪の後ろ姿が遠ざかっていくのを見て、ナオが英理の手を強く握りしめた。
「行こう、英理! このままじゃ終わらせられん!」




