第15話 【空気の読めない告白】
翌朝、学校へ向かう途中でナオがいつものように駆け寄ってきた。
「おっはよー、英理! 今日も良い天気じゃね!」
「おはよう、ナオ」
英理は精一杯の笑顔を作ろうとするが、声に元気がない。
「まだ、昨日のこと引きずっとるん? 佐藤くんの件、英理が気に病むことじゃないよ」
「ううん、そうじゃないと。
ただ、自分が恥ずかしくて。ナオや佐藤くんにまで、あんな迷惑かけて」
ナオは英理の隣に立ち、少し歩調を合わせて歩き出した。
「気にせんでええよ。あんたがあれだけ真っ直ぐに私のこと考えて怒ってくれたこと、実はちょっとだけ嬉しかったんじゃけぇ」
「ありがとう、ナオ。
あぁ、今日、和也兄ちゃんが凪くんに会う段取りばつけてくれてると。
私、どうしても確認せんといかんことがあって」
学校の教室
自分の席に座っても、教科書を広げても、まるで魂が抜けてしまったかのように窓の外をぼんやりと見つめている。
そんな英理を、隣の席のナオは黙って見守っていた。
昼休みの静かな教室。
彼女は一点を見つめたまま、動く気配はない。
そこへ、突然同じクラスにいる、田中が英理の席の横に歩み寄って行く。
彼はクラスのムードメーカーで、英理ともたまに挨拶を交わす程度の距離感の相手でした。
「おーい、英理!おーい、聞いてるかー?」
ようやく自分の名前に気づいた英理が、ハッと我に返って視線を戻した。
「えっ? あ、田中くん。ごめん、今ちょっとぼーっとしとって、何かな?」
「いや、別になんてことないんだけどさ! 今日、お前、なんか元気ないっていうか、考え事してる顔が多いからさ、」
「あ、ごめんね、田中くん。」
「何ば謝っとるん?」
彼は英理の机に片手を置き、視線を低くして続けた。
「最近さ、隣のクラスの佐藤がやたらお前の周りをウロウロしてるだろ? あいつ、お前のこと狙ってるんじゃないのかと思ってさ。
…正直、見てて面白くないんだよ。お前が佐藤なんかに取られるのは、なんか納得いかなくて」
「俺さ、ずっとお前のこと見てたんだ。佐藤よりずっと前から、だからさ、もし佐藤に何か言われても、簡単に頷いたりしないでほしいっていうか」
この光景を、隣りの席からナオが鋭い視線で捉えていた。
ナオの心の中で、嫌な予感の警鐘が鳴りだす。
(このタイミングでそれ!? 田中、あんた空気読まなさすぎよ!)
英理は呆然と田中を見つめ、困惑に眉を寄せた。
「えっ、田中くん、それどういう」
「とにかく、俺が言いたいのは、あいつじゃなくて、俺を見ててほしいってことだよ!」
ナオはたまらず立ち上がり、田中と英理の間に割って入ってきた。
「ちょっと、田中! 何言っとるんよ! 今の英理に、いきなりそんなこと迫るなんて、あんた、ちょっと落ち着きなさい!」
「何だよ、ナオ。俺はただ、自分の気持ちを伝えただけだろ。英理、返事くれよ。俺じゃダメなのか?」
(英理は、今この瞬間でさえ脳裏を占めていたのは、凪の横顔だった。)
「田中くん、気持ちば伝えてくれて、ほんとにありがとう。そう言ってくれて、正直驚いたし、嬉しかった」
英理の声は小さかったけれど、芯の通った澄んだ声で返事する。
「でも…ごめんなさい。今の私には、好きな人がおると。だから、田中くんの気持ちには応えられん」
その言葉を聞いた瞬間、ナオは息を呑んだ。
「好きな人がいる」
(英理。あんたが言ったその人って、佐藤くんのことじゃないよね)
昨日の今日で、佐藤くんへの返事を迷っていた英理が、あれほど真っ直ぐに「好きな人がいる」と言い切る。
(…まだ凪くんなんだね)
(佐藤くんに返事を決めたんじゃなくて、凪くんに会うまで、誰のことも受け入れられないって言ってるようなもんじゃない)
ナオの心の中で、一つの確信が膨らんできた。
(英理をこれほどまでに狂わせる凪くん)
放課後の予鈴が鳴り、教室内が帰りの準備でざわめき始めた頃、ナオは英理の机にスッと近づき、小声で。
「ねえ、英理」
「ん? 何、ナオ?」
「今日の放課後、凪くんに会いに行くんやろ。和也くんが段取りしてくれたやつ。私さ、一緒について行ってもいい?」
「ほんと!? うん、もちろん! おってくれたらすごく心強い。
一人やと、なんだか心細くて、どうしようかって思っとったと」
「良かった。じゃあ、一緒に行こう」
ナオは頷き。
(凪くん…。あんたがどんな人なのか、親友の人生が懸かっとる今、改めてしっかり見させてもらうよ)




