↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
162/176

第161話 【二人から三人へ】

結婚して、2年が経とうとしていた。


初夏の朝。長崎の高台にある新居に、静かな朝の空気が満ちていた。


眩しい日差しが差し込むキッチンで、ふたりはいつものように並んで立っている。


「凪くん、また寝癖ついとるよ。……ほら、じっとしとき」


パジャマ姿の英理が、小さな踏み台に乗って凪の頭を湿らせたタオルで押さえる。


「ええねん、どうせ介助で汗かいてボサボサになるんやから。それより英理、トースト焦げとるぞ」


「え! ……もう、凪くんが喋りかけるけんよ」


「ねえ凪くん、今日のロケ弁、西京焼きのお弁当らしいとよ。凪くんの分も持って帰ってあげたいね」


「いらんわ、そんなん。仕事集中せぇよ。俺は夜、和也と釣った魚で一杯やってるから」


そうぶっきらぼうに送り出しながらも、凪は英理を乗せた車が見えなくなるまで見送っていた。



夕方、仕事から戻った凪が庭の植木に水をやっていると、ポケットのスマホが震えた。


『凪くん、撮影終わったよ。すごく疲れたけど、明日の朝帰るけんね。野菜いっぱいのちゃんぽん作っといて!』


メッセージに既読をつけ、「おう、気をつけて帰れ」とだけ返信し、凪は静かに画面を伏せた。



帰宅した翌朝。いつもの家に、柔らかな朝の光が差し込んでいた。


凪がいつものように出勤の準備をしていると、洗面所から戻ってきた英理が、凪の服の裾を小さく引っ張った。


「……凪くん、ちょっとええ? ……あのね、大事な話があるんと」


「なんや、改まって。……また仕事の悩みか? それとも、どっか体調でも悪いんか?」


「……違うと。あのね。……うちに、赤ちゃんができたんと。……凪くん、お父さんになるとよ」


凪は手に持っていた車の鍵を、畳の上に落とした。


「……お父さん……? ……俺が? ……ほんまか、英理」


「うん。さっき、検査薬で確認して……。まだ、ちっちゃい命なんだけど、ここにおるとよ」


英理は凪の大きな手をそっと取り、自分のお腹に重ねた。


「……凪くん、手がすごう震えとるよ」


「当たり前やろ。……俺、……まさか俺の人生に、こんな日が来るとは思てへんかった」


「ずっと、お前の隣におれるだけで十分やと思っとったから……」


「凪くん。うちね、すごく嬉しいんと。……この子と一緒に、これからも凪くんの隣におれるんやね」


「……お前こそ、俺みたいな男を……お父さんにしてくれて、ありがとうな」


凪は英理をそっと抱きしめた。


「英理。俺、一生かけて、お前とこの子を守るからな」


「頼りにしとるよ。……でも、今日はお仕事、遅刻せんようにね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。