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第155話 【まさかの救世主】

【長崎】

「続いてのニュースです。神之浦英理さんが主演を務める最新映画の制作発表が行われ、撮影現場からのインタビュー映像が届きました」


お昼時、介護施設の食堂。

テレビの画面の中で、下ろした長い髪をさらりと揺らした神之浦英理が、落ち着いた笑みを浮かべていた。


「過酷な現場ですが、素晴らしいスタッフの皆さんと順調に撮影が進んでいます」


テレビの中で笑う英理の姿に、食堂のおじいちゃんやおばあちゃんたちが釘付けになっている。


「いやぁ、神之浦さんは今日も綺麗やねぇ。わし、大ファンなんよ」


「あ、そういえばみんな知っとっと? 神之浦さんって、東京で撮影があるたびに長崎から通っとるらしいよ。一般の人と結婚して、普通のお家に住んどるんだって」


「あ、それ知っとる!」


「うちの友達も、ゆめタウンで二人で買い物しとるところ見たって言いよったよ。旦那さんがカート押して、神之浦さんが楽しそうにキャベツ選んどったらしい」


「ええっ!? ゆめタウンにおるん!? わしも毎週行っとるのに、一回も見かけたことないわぁ!」


食堂が一気に沸き立つ。

その隅で、作業着姿の凪は顔を赤くしながら、そっと胸を撫で下ろしていた。


(ふぅ。みんな気を使って話しかけんといてくれるんか。助かった……)


「おやおや、みんな何をそんな遠い世界の話みたいに騒ぎよるんね」


お茶をズズッとすすりながらテレビを眺めていた、施設で一番元気なおばあちゃんが口を挟んだ。


「ここに座っとる凪さんの奥さんかって、ものすごーく綺麗な人よ?」


「……え?」


「この前、近所のスーパーで凪さんを見かけたんよ。隣におった奥さん、大きめの帽子にサングラスして、シュッとした人やったわぁ。下ろした長い髪がサラサラで……そうそう。まさに今、テレビに映っとる神之浦さんみたいだったよ」


「…………」


食堂から、すっと音が消えた。


(やめてくれ……!)


「ねぇねぇ! じゃあ凪さんの奥さんって、マジで神之浦さんみたいに綺麗なん!? 写真見せてよ!」


若い職員たちが一斉に凪へ詰め寄る。


「いやいや、ほんま勘弁して! スマホにも財布にも写真なんか入ってへんって!」


「絶対ウソや! 隠すとか怪しすぎ!」


「見せるわけないやろ。嫁さんの写真を他人に自慢するなんて……恥ずかしいわ!」


凪の顔が、さらに真っ赤になる。

すると次の瞬間――


「キャァァァァァァーーーーーっ! 待って、 国分蒼くんが出とるーっ!」


食堂の一角から、黄色い悲鳴が上がった。


「うち、蒼くんのガチの大ファンなんよ!」


「私も! 蒼くんのインスタ毎日チェックしとる!」


一瞬にして、食堂の視線がテレビへ移る。


「……ふぅ。た、助かった……」

凪は思わず大きく息を吐いた。


「国分くん、お前がどんだけ凄いやつかは知らんけど……今この瞬間だけは、俺の平和を守ってくれてほんまにありがとう……」


テレビ画面の中で爽やかに微笑む国分蒼に、凪は心の中で静かに感謝した。

数日前、東京の高級焼肉店で、その「超イケメン芸能人」が自分の妻に振られていたことなど――凪は知る由もなかった。


「凪さーん! 休憩終わりですよー!」

「あ、はい! 今行きます!」

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