第149話 【一番贅沢な夢】
新婚旅行から戻り、リビングには開け放たれたスーツケースと土産物の箱が転がっていた。
朝、凪が不器用な手つきで淹れたコーヒーの香りがリビングに漂う。
英理は凪のパジャマの裾を掴みながら、まだ眠たそうに彼の背中に顔を埋めた。
「……凪くん、おはよ。……ねえ、うち、決めたと」
「なんや、朝から改まって。……トースト、もうすぐ焼けるぞ」
凪が振り返ると、英理は真っ直ぐな瞳で彼を見つめた。
「……長崎に、帰ろう。……うちは東京で仕事がある時にこっちに来ればいいけん。
でも、二人の『家』は、あの坂道が見える長崎に作りたいと」
凪はトングを置いた。
「……そうか。お前もそう思うとったんか。……俺もな、和也に『あいつの準備ができたら、実家の近くに土地探してくれ』って頼んどいたんや」
「えっ! 凪くん、いつの間に……!」
「……お前が東京におると、なんか無理して息詰まらせとるように見えたからな……。それに、俺の不自由な脚も、あの坂道を見ればよう動く気がするんや」
英理は凪の首に腕を回し、嬉しそうに声を上げた。
「やった! ……じゃあ、お母さんの家のすぐ近くにしようね。
小さな庭があって、凪くんがいつでも肉を焼けるような、そんな家。……仕事が終わって、飛行機で飛んで、あの坂道を上がった先に凪くんがおる。
……それが、うちのこれからの夢なんよ」
「お……おう。夢か、素直に嬉しいわ……。俺はそこで、お前がいつ帰ってきてもええように、ラムネ冷やして待っとるわ。……あ、でも掃除は手伝えよ?」
「あはは、凪くんがしてよ! ……大好き、凪くん」
英理が甘えるように額をコツンと重ねてくると、凪は照れ隠しに彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でた。




