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第148話 【新婚旅行・二日目】

あくる日。

ローマから南へ移動し、二人がやってきたのは、崖に沿ってカラフルな街並みが広がるアマルフィ海岸の街、ポジターノ。


「うわぁ、見て凪くん! 崖一面に家が広がっとって、バリ綺麗……!」


白いワンピースの裾を揺らし、英理が絶景を見下ろして声を弾ませる。


急な石段を歩いていると、南イタリア名物の生搾りレモングラニータのお店を見つけた。


「昨日のジェラートは不覚をとったけどな、これなら俺でも頼めるわ。『レモン、ツー!』で一発やろ」


凪は意気揚々とカウンターへ向かった。


「おっちゃん! ディス、レモン……ツー、プリーズ!」


自信満々に二本の指を立てると、陽気な店主は「オッケー、アミーコ!」と親指を立て、凪の隣にいる英理へ目配せしながら大きなレモンを豪快に絞り始めた。


「見たか? これが大人のスマートな注文ってやつや」


カップを受け取り一口飲んだ瞬間、凪は「うっ……!? 酸っっっぱ!!」と顔を歪めて撃沈した。


自分の甘いグラニータを味わっていた英理が、クスクスと笑う。


「おじさんが気を利かせて砂糖抜きにしてくれたとやない?」


「なんで俺のやつだけストイックな仕上がりになってんねん」


「ふふっ、特別仕様やったね。ほら、うちのと半分こしよ?」


英理に甘いグラニータを口へ運んでもらい、二人は海を見下ろすテラス席に腰を下ろした。

地中海の風が吹き抜け、英理の髪をふわりと揺らす。


「ねぇ凪くん、すごかよここ。うち、こんな素敵な場所に住んでみたいなぁ」


美しさに見とれていた凪だったが、その言葉に一瞬で表情を硬くした。


「お、おい……住むって本気か……!? いや、そもそも崖の上の家っていくらくらいするんや!」


こっそりスマホで「ポジターノ 不動産」と検索した凪は、画面の『独立ヴィラ:30億円』の文字に思い切り目を剥いた。


(買うとなったら国家予算レベルやんか……!)


「な、凪くん……? 急に固まって顔色バリ悪かよ?」


「お前……っ! で、でも、お前と一緒になら俺はどこで暮らしたって……っ」


「あはは! 凪くん、本気にしすぎたい! 『住みたくなるくらい素敵』って言いたかっただけよ!」 


「……お前な! 人の決意を試すような冗談言うなや!」


焦る凪に、英理がいたずらっぽく顔を近づけてくる。

息がかかるほどの至近距離で凪が照れて身を引こうとした瞬間、英理の悪戯な笑みがすっと消えた。


「……凪くん」


そっと伸ばされた手が凪の頬を包み、触れるだけの短いキスを落とされる。


「ありがと。どこへでもついていくって言ってくれて、バリ嬉しかったよ」


凪はスプーンを持ったまま固まり、遠く広がるアマルフィのコバルトブルーの海を呆然と見つめた。そのまましばらく微動だにしない。



ポジターノの夜。

崖に散らばる街灯りが、暗い海の上に浮かんでいる。


潮風が抜けるバルコニーで、ふたりはグラスを手に夜景を見下ろしていた。


「美術館で格好つけたり、レモンで悶絶したり……俺、カッコ悪いところばっかり見せた気がするわ」


「それがバリ良かったもん。凪くんが一生懸命で、もっと好きになったし」


肩に頭を預けてくる英理の髪を、凪は愛おしそうに撫で下ろした。


「俺な、旅行が終わったあとのこれからの毎日も……格好つかへんことの方が多いかもしれんけど、絶対にお前を幸せにするから」


「もう十分幸せ。……でも、これからもずっと幸せにしてね」


見上げる夜空には、満天の星。

二人はどちらからともなく見つめ合い、静かに唇を重ねた。

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