第139話 【しまなみドライブ日和】
「見て、凪くん! 海ほんとキラキラしとるよ。ねえ、ちょっと窓開けてもよか?」
助手席の英理が身を乗り出した。
凪はバックミラーで後方を確認し、ハンドルを握り直した。
「おう、ええよ。でも帽子飛ばされんように気をつけろよ。しまなみの風は案外強いからな」
窓を開けた瞬間、潮の香りが車内に流れ込む。英理は「んー!」と声を上げて大きく背伸びした。
「最高……。ねえ凪くん、あっちに見える島、なんていう名前?」
「あれか。あれは大三島や。今日は空気が澄んどるから、遠くの橋までよう見えるわ」
「へぇ……。いつかあの橋、二人で歩いて渡ってみたいね。あ、でも凪くんの足、無理はさせんよ?」
「馬鹿言え。これくらいリハビリと思えば何てことないわ。英理の方こそ、ヒールなんか履いとるから疲れるんちゃうか」
「あはは、今日はスニーカーやもん! 凪くんと歩く気満々で来たかとよ」
二人は観光客の少ない静かな砂浜に車を止め、波打ち際まで歩いた。
「冷たい! 凪くん見て、水が透き通っとるよ。小魚がおる!」
「おう、ほんまやな。おい英理、あんまり深くまで行くなよ。衣装濡れるぞ」
「ええんよ」
そう言って笑う彼女の顔を、凪は砂浜に腰を下ろしながら眩しそうに見上げた。
「凪くん、なにを見よると?」
「いや。ええ顔して笑うようになったなと思ってな」
英理は少しだけ照れくさそうに微笑んだ。
「そりゃあ、凪くんがここで変わらずにおってくれるからよ。
東京におるとね、時々自分が誰なんかわからんくなるんよ。
でも、ここに来て凪くんと話しとると、何も変わっとらん自分に戻れてホッとするんよ」
ふと思い出したように、英理が手をぽんと叩いた。
「あ、ラムネ! 買っといてくれた?」
「おう。車でキンキンに冷えとるよ」
「やった! 開けるの、また凪くんに手伝ってもらわんとね」
「一回くらい自分で開けられるようになれよ」
「無理。凪くんに開けてもらうのが、一番美味しかもん」




