第137話 【完全復活】
あの深夜の再会から数日。
凪が付きっきりで介抱した甲斐もあり、英理の頬にはうっすらと赤みが戻っていた。
神之浦家の茶の間には、久しぶりに賑やかな声が響いている。
和也と凪がビール缶を片手に仕事の失敗談で笑い合い、ナオがそこに容赦のないツッコミを入れる。
その中心で、英理は凪の隣にちょこんと座り、彼が取り分けた料理をちびちびと口に運んでいた。
不意に顔を上げた英理が、和也の言葉に相乗りする。
「ほんとよ! お兄ちゃんの言う通り。凪くん、遅すぎるもん。……どんだけうちにLINE待たせたんと。
うち、携帯壊れたとかと思って何回も設定見直したとよ?」
「あ、いや……それは、いろいろ事情が……」
視線を泳がせる凪に対し、英理は畳みかけるように作業着の裾をぐいっと引っ張った。
「事情とかどうでもよか。
あんた、自分だけしまなみで穏やかに暮らしとったなんてずるか。
うち、こんなに痩せて、鏡見るのも嫌になったとけんね。これ、全部凪くんのせい。
一生かけて償ってもらうけん」
「わかっとるよ。一生でも二生でも、隣で償わせてもらうわ」
凪が参ったように頭をかくと、和也とナオが顔を見合わせ、たまらず吹き出した。
「あはは! 英理、完全に復活したばい! 凪くん、あんたこれからの人生、このわがままお姫様に使い倒されるの確定ね!」
ナオが面白がると、台所から顔を出した美津子も笑う。
「よかじゃない。凪くん、あんたがおらん間の英理のわがまま、全部溜まっとるけんね。覚悟しときなさいよ」
「はい。覚悟します。
和也、ビールくれ。今日はあいつの説教に最後まで付き合うわ」
茶の間に響く笑い声を聞きながら、英理は凪の袖を掴んだまま、その横顔から目を離さなかった。
―第三章・完。
(第四章「長崎編」へ続く)




