第111話 【胸元に遺された唯一の真実】
5ヶ月後、2017年、冬。
棟方との関係は、思いもよらない形で終わりを迎えた。
きっかけは、棟方のスマホに届いた通知を英理が偶然目にしてしまったことだった。
そこには、別の若手女優との親密なやり取りと、英理を「世間体のための飾り」として冷笑するような言葉が並んでいた。
『ねえ棟方さん、今夜もあの「女優様」とお食事?』
『まさか。客寄せの飾りとしては優秀だけどね』
『ひどーい! でも、正直、彼女のことどう思ってるの?』
『どうって……正直、退屈だよ。いつまでも田舎の思い出話を引きずってるような重い女だしさ。僕の隣に立つ器じゃないよ』
画面をスクロールするたび、英理の血の気が引く。
実家であれほど完璧に「理想の恋人」を演じてみせた男の、それが本性だった。
♢
「……これ、どういう意味?」
震える声で問い詰める英理に対し、棟方は悪びれる様子もなく、むしろ苛立ちを隠さずに言い放つ。
「そんなに目くじら立てるなよ。君だって、いつまでも『長崎の坂道』みたいな湿っぽい過去を引きずって、僕を退屈させているじゃないか。君のそういう『重さ』、今の洗練された世界には不釣り合いなんだよ」
その洗練された、けれど血の通わない言葉。
英理の中で、何かがぷつりと切れた。
「……そうじゃね。あんたの言う通り、うちはこの世界には不釣り合いな人間かもしれん」
英理は涙を拭い、棟方を真っ直ぐに見据える。
「でも、うちは自分の過去を恥じたことは一度もない。……あんたみたいな、自分しか愛せん人に、うちの本当の居場所は一生分からんわ」
「何だと?」
「もうええ。……出てって」
激しい言い合いの末、棟方は吐き捨てるように部屋を去った。
熱狂的な熱愛報道は、最悪の後味を残して「破局」した。
棟方という「偽りの光」を失い、一人残された静寂の中で、英理は崩れ落ちるように泣いた。
怒り、悲しみ。
そして何より、自分を本当に大切にしてくれていた「あの人」を裏切ってまで選んだ幸せが、こんなにも空虚だったことが苦しかった。
英理は震える手で、服の下に隠していたネックレスを強く握りしめた。




