第99話 【英理の独白】
撮影現場で向かい合う棟方 燿は、同じ「表現者」として仕事の苦労を分かち合える、数少ない存在だった。
都会的で洗練された佇まいと、スマートで軽やかな優しさが、今の英理には心地よかった。
凪くんのことが嫌いになったわけではない。 今でも大切な人だし、愛おしいと思っている。
けれど、その一途な想いが、今の私には少しずつ重く感じられるようになっていた。
スマートで洗練された棟方さんの優しさに比べると、凪くんの愛はあまりにも純粋だった。
私が今の場所にいられるのは、長崎にいた頃から、彼が不器用ながらもずっと支えてくれたからだ。
だからこそ、凪くんの想いに応えなければいけないような気がしていた。
それが、いつの間にか私自身を苦しくさせていた。
(……凪くん。私ね。あの日からずっと変わらないあなたを、今でも愛おしいと思っとるよ。
でも……この眩しい世界で、私、凪くんとは違う何かに惹かれてしまったんよ)
華やかなスポットライト。 棟方さんの洗練された振る舞い。
その世界にいる自分が、今の私には心地よかった。
凪くんと過ごしてきた時間とは、また違うものだった。
――そんな時に届いた、凪くんからのLINE。
『ニュース見た。……棟方さんって人と、ほんまなんか?』
画面を見た瞬間、英理の胸が少し痛んだ。
凪が心配していることは分かっていた。 それでも今は、その問いに向き合いたくなかった。
忙しい現場の中で、凪とのことを考える余裕もない。 何をどう答えればいいのか、それすら考えたくなかった。
あの頃の長崎にいた自分へ戻されるような気がして、英理はそっとスマホを伏せた。
『ごめん、今忙しいから。後にして。』
指先が、その言葉を打ち込んだ。
送信したあと、英理は一瞬だけ画面を見つめた。
(……ごめん、凪くん)
けれど、その気持ちを胸の奥にしまうと、英理は再び目の前の仕事へ戻った。




