第6話 復讐するは我にあり
この世界ユートピアに転生する前……俺は悪名高い武器商人として闇の世界に君臨していた。
俺1人の力ではない。
優秀で頼りになる部下3人のおかげだった。
……コンコンッ!
「黒木舞です!フランクを連れて参りました!」
『おう!入れ!』
(この高圧的な声……ボビーだな)
扉を開け、中に入ると、なんとも懐かしい顔ぶれが、異様なオーラを放ちながらソファーに腰掛けていた。
右のソファーに座っているのは、浅黒い肌に綺麗に整えられた口髭を持つ男……ボビー。
「こいつがフランクって野郎か?」
左のソファーに座っているのは、プラチナブロンドの髪を気だるげに揺らし、ソファーで足を組んでいる白人美女……レイラ。
「随分と目が細いのね。キツネみたいで気色が悪いわ」
そして……真ん中のソファーに座っているのは
無造作に流れた銀髪が妖艶な色気を放つ、一見すれば誰もが振り返るほどの美男子……マッシュ。
「ククク!キツネはお前だろ、レイラ!
同族嫌悪もほどほどにしとけ!」
「はぁ!?私に喧嘩売ってるわけ!?」
「あ?なんだ?」
狂気じみた目でレイラを睨み付ける。
「っ!?……な、なんでもないわ!」
「……ふんっ!……で、フランクって言ったっけ?お前」
「は、はい!そうです!」
ペコペコと頭を下げながら、俺は心の中で自分の演技を評価していた。
気弱そうな無能の生徒会書記長。
……うん、完璧に演じられているはずだ。
そうでも思わなければ、今この瞬間にも、怒りで理性が消し飛びそうだったから。
腸が煮えくり返っている。目の前が真っ赤だ。
今すぐにでも、この手でこいつらをぶっ殺してやりたい!!
お前たちが俺を裏切ったと知ったあの時……俺は他の部下を使って、お前たち3人を完璧に捕らえてみせた。
俺の所有する薄汚い豚小屋で行った、簡易的な私刑裁判。絶望に顔を歪めるお前たちを無様に跪かせ、処刑し、文字通り豚のエサへと変えてやったあの瞬間。
――勝負は、そこで終わっていたはずだった。
(はずだったんだ!)
「単刀直入に言う。実はな……昨日から佐藤太一って男の子が行方不明なんだ。冒険者ギルドに依頼したいから、その費用を負担して欲しい。出来るよな?」
「……え?それは……」
「出来ねえとは言わせねえ。
この学園にはたんまり金があるらしいじゃねえか!王子様が言ってたぜぇ?」
「お、王子様?ア、アレク様ですか?
確かにこの学園の予算は3つの王国を養うほどありますが……」
「……が、なんだ? 出せねえって言うんじゃねえだろうな、あ?」
マッシュがソファーから身を乗り出し、その美しい顔を狂暴に歪めて俺を睨みつける。
「い、いえ! 滅相もありません! ただ、学園の予算を動かすには、生徒会長であるローズ様の正式な許可証と、用途を証明する書類が必要になりまして……」
俺は引きつった笑みを浮かべ、揉み手をしながら弁明する。
「……死にてえのか、お前?」
「ヒッ!?わ、わかりました!!
なんとかしてみますぅぅ!!」
(エサくらいはくれてやるさ……しかし……)
「よしよし!良い子だぁ……お前がもう少し顔立ちが整っていたら抱いてやったのに!」
(この世界で欲しいモノを言ってはいけない。
それが心の隙を生み、油断となり、背後からバリボリ喰われるんだ。忘れてしまったようだなぁ……マッシュ……ん?)
待て……待て待て待て!?
今まで気付かなかったぞ!?
テラスに誰か立っている!?
(この感じ……まさか!?)
「気はすんだか……マッシュ」
そう言ってテラスに立っていた人物は振り返り、俺たちの方へと歩を進める。
……風になびく長く美しい金髪……
……マッシュ以上に整った美しい顔……
……天使のような白い翼……
「ああ……ミカエルさん!!来てたのか!!」
(ミカエル!!貴様だ……貴様のせいで……俺は全てを失った!!)
「悪かったな、こっちの用はすんだ。
で、あんたの用は?」
「今日の開会式……スピーチの原稿はちゃんと暗記したのか……それの確認だ」
「あ、ああ!勿論だよ、ミカエルさん!
バッチリだ!心配しなくていい!」
「それを聞いて安心したよ、マッシュ。
どうも最近貴族共が浮き足だっていてね。
今回の開会式で我らの威光を示したい」
「大丈夫だよ!しくじらねえって!」
「……おい、そこの穢らわしいモノよ」
「え?」
「頭が高い!!」
そう言ってミカエルは俺の腹部を蹴った。
「ぐぅぅ!?」
俺はその場で踞る。呼吸が出来ない。
「悪魔より生まれし邪悪な存在め!!
立場をわきまえよ!!私と貴様らの間には序列があるのだ!!圧倒的に!!」
そう言ってミカエルは光の玉となり、窓から外へと飛び立って行った。
「ぐうっ……ぐはっ!!」
「……今の表情、もう一度見せてくんね?」
そう言って今度はマッシュが俺の脇腹に蹴りを入れてくる。何度もだ。
「ぐああ!?ぐぎゃあ!?」
「ほらほら!さっきの表情だよ!さっさとしろよ!」
「その辺にしとけば?マッシュ。
死ぬわよそいつ」
「……ほっとけレイラ。こいつの変わりなんていくらでもいるさ」
「……無能力で不細工な男は死ねばいい!」
(か、勝手な事ばかりほざきやがって!
さっきの顔とは何のことだ!?
わからない……わからない!!)
「ヒャッハハハハハハハ!!
そうそう!その顔だ!良い顔だぜぇ?
絶望に満ちたお前の……その……顔!!」
「ぐっ!?」
(絶望……? これがか?)
あまりの滑稽さに、喉の奥からせり上がる笑いを噛み殺す。
マッシュ、お前にはこの顔が絶望に見えるのか。相変わらず、ただ暴力を振るうことしか脳にない単細胞だ。
(これはな……お前たちをどう料理してやろうか考えている、極上の歓喜の顔だよ……!)
「ふぃ~~!あ~~!楽しかったぁ~~!
舞!そいつ、外に放り出しとけ!目障りだ」
「わかりました」
そして、俺はゴミのように廊下に放り出された。
「う、うう!……おのれ……見ていろよ」
俺はゆっくり立ち上がり、この学園の裏へ向かう。
周囲の光を吸い込むような漆黒の【冥界の衣】に着替え、禍々しい【冥界の仮面】を着ける。手を前にかざすと、ドス黒い妖気を放つ【冥界の杖】が現れ、それを力強く掴み……俺は完全にヴィランへと戻った。
「……来い」
指をパチンと鳴らす。
すると、白いフードを被った3体のメタルゴーレムが現れた。
『グケケケケケケケ!!』
『ギシシシシシシシ!!』
『グルルルルルルル!!』
「復讐するは我にあり!!
さぁ、始めよう!!絶望の開会式を!!」
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