第4話 モンスターの創り方
「……ふむ、死んだか。
ご苦労だったね……良い顔だよ太一君。
そのままの君でいてくれ。すぐ済むから」
ヴィランは骸となった太一の首筋を撫でると、ノコギリを手に取った。
「では、いくよ……太一君!」
ギーコ……ギーコ……ギーコ……
「ごめんな……ゆっくりやらないと返り血が顔に着いちゃうんだよ……もう死んでるから許してくれるよね!」
ギーコ……ギーコ……ドサッ!
「ふう!とれたとれた!」
ヴィランは太一の首を洗面台に置く。
そして、今度は太一の胴体にメスを入れた。
「……出てきたぞ。光のツル、いや、触手か」
ヴィランはソレをピンセットで取り、蓋付きのビーカーに入れる。
「ふむ……さっきのじゃなくて、他のメタルゴーレムに移植しよう。さっきのは造りが甘かったからな」
ヴィランは一仕事を終えるとイーザと呼ばれる酒をコップに注ぐ。そして、ドクロの仮面の口部分の横のネジをクルクル回した。
カチリ、と小さな金属音が響き、ドクロの顎がスライドして、漆黒の闇を孕んだ口元がわずかに開く。
「一息入れよう」
ヴィランがその仮面の隙間へ流し込むように、イーザを少し口に含んだ。
すると、壁の松明が激しく揺れる。
「……ゴクリ……やれやれ」
続いてラップ音が鳴り響き、どこからともなく太一の声が聞こえてくる。
『ヨクモ!……ヨクモ!やってくれたナァ!』
ヴィランは杖を持つとゆっくり立ち上がる。
「地獄で裁きを受けていれば良いものを……」
ラップ音がさらに激しく鳴り、さらに器具や戸棚がガタガタ激しく揺れ動く。
ヴィランはイーザが入っている瓶を取るとゴクリゴクリとゆっくりと飲む。
「……ふぅ」
『俺、ワルいことしてナイ!!
お前に!俺、ワルいことしたか!?』
「…………」
『してナイヨナァァァ!?
お前、人の心ないのカァ!!』
ヴィランはドクロの仮面の口部分の横のネジをクルクル回した。
カチリ、と小さな金属音が響き、スライドしていた顎が戻って、その口元が完全に閉じた。
『あんな……アンナ酷い殺し方しやがってぇ!
許さない!許さない!ユルサナイ!
殺してやる!殺してやる!コロシテヤルゥ!
呪い殺してやるぅ!みんな、みんなみーんな!同じ目にあわせてやるぅ!』
「……ガキが!」
ヴィランは持っていた瓶を床に叩きつける。
「聞いた俺が馬鹿だった!本当に時間の無駄だった!もう、慈悲は与えん!覚悟するがいい!」
『ふんっ!雑魚の分際で何ができる!?
モンスターがいなければ何もできないくせに!!』
「……そうかな?」
『そうだよ!俺の力を見るがいい!』
ガツンッ!ガガガガガガッ!!
床に散らばったメス、トンカチ、ノコギリといった鋭利な鉄の器具が、まるで磁石に吸い寄せられるように、一斉に天井へと浮かび上がった。
――キィィィィィン……。
鼓膜を刺すような金属音が鳴り響き、浮かび上がった無数の刃先が、狂った方位磁針のように一斉にヴィランの顔へと向けられる。
部屋の空気は一瞬で氷点下へと叩き落とされ、ヴィランのドクロの仮面の隙間から漏れる吐息が、白く凍りついた。
『ヒハハハハハ! 蜂の巣にしてやる! 切り刻んでやるよォォォ!!』
宙に浮く鉄器たちが、ヴィランを殺すために不気味にカタカタと震え出す。
『俺がドコにいるかワカルカァ!?
わからないダロゥ!?
次元が違うんだよ!!バーーーカ!!』
「……まだ、君に3つほど言ってなかったことがある」
ヴィランは杖で地面を叩く。
『ギッ!?ギガッ!!なんだコレ!?
う、動けない!?』
「1つは、俺が着けているこの仮面だ。
この仮面の名は、冥界の仮面と言ってね。
死者が見えるし、会話することができるんだ」
『なっ!?ナンだとッ!?それじゃあ……』
「ああ……君の想像の通りだよ!
それで……2つ目はね……」
ヴィランはもう一度、杖で地面を叩く。
『ぐああああああああーーーーーー!?』
「この冥界の杖だ。この杖はね……魂を捕まえることが出来るんだ!このように!」
また、杖で地面を叩くとさらに太一は悲鳴を上げる。
『ぎゃあああああああーーーーーー!!』
「そして、3つ目……俺は……死霊術士だ!
今から君にモンスターの創り方をレクチャーしてあげるとしよう!」
そう言ってヴィランは懐から一本の小刀を取り出した。
「これは堕天使の羽と呼ばれる小刀でね。肉体は傷つけず、魂の膜だけを切り裂くことができる」
「なっ!?ナニを――」
太一の驚愕を余所に、ヴィランはその刃を迷わず自身の胸へと突き立てた。
ヴィランはそのまま小刀を下へと動かす。
刃は肉を裂くことなく、ヴィランの胸元に、空間そのものが歪んだような漆黒の裂け目を生み出した。血は一滴も流れない。そこは、魂の奥底へと繋がる深淵だ。
「ククク……魂の中に保管(隠)してあるんだ。
今からソレを見せてあげるよ」
ヴィランはその漆黒の闇に手を入れる。
引き抜かれたその手には、怪しく拍動する黒い頭蓋骨を机に置く。次に白い頭蓋骨が机に置かれた。
裂け目は自然に閉じた。
「この黒いのは悪魔の頭蓋骨、そして白いのが天使の頭蓋骨……」
2つの頭蓋骨を逆さにして机に置くと、ヴィランは杖を手前に引くように動かす。
『あ、あああ!?ひ、引っ張られる!?』
「ククク……黒き魂を悪魔の頭蓋骨に……」
『ああああああーーーーーーーーー!!』
「入ったな」
ヴィランは、次に自分自身の手の平を堕天使の羽で突き刺し、小さく下に動かす。
裂け目が現れ、ヴィランの肉体から、彼自身の魂の一部である『白い靄』が淡々と染み出し、天使の頭蓋骨へと入っていく。
「白き魂を天使の頭蓋骨に……」
手を握り込むと裂け目は消えた。
「さて……」
ヴィランは冥界の杖を、机の上の2つの頭蓋骨へと向けた。
カタカタと音を立て、逆さに置かれた黒と白の頭蓋骨が、コップとしての開口部を上に向けたまま、並んで宙へと浮かび上がる。そして、一定の距離を保ちながら水平にゆっくりと円を描いて回り始めた。
――ゴォォォォォ……!
回転の遠心力に呼応するように、2つの頭蓋骨の空洞から、閉じ込められていた魂が真上へと激しく噴き出した。
悪霊の魂とヴィランの魂が渦となり、1つの球体へと変わった。
「ククク!どんな邪悪なモンスターになるのか……期待しているよ太一!」
次はモンスターの肉体だ。
「カラスの腐った卵、オークの爪、カララギの心臓……こいつらをこの機械に入れる」
数分もしない内にモンスターの肉体が出来上がった。
「では、モンスターの魂を入れるとしよう」
冥界の杖を使って魂を動かし、出来上がったモンスターに入れる。
『ガ……ガア!』
「ほら!頑張れ頑張れ!ちゃんと呼吸を……」
『カ……ア……』
「死んだ?……臓器を微調整するか」
そう言ってコンソールを操作する。
「おっと!危ない危ない!お前はココだ」
上へ行こうとした魂を冥界の杖で、再び拘束する。
「悪霊に容赦などしない。
安らかな死も、地獄に行くことすらも許さない」
失敗したモンスターの肉体は廃棄した。
それから5分後……
「よし!成功だ!
今日からお前の名は大ガラスだ!
ほら、太一の首を持ってみろ!
カア!と鳴け!鳴くんだ!」
『タ……ス……ケ……』
「ん?」
『タスケ……テ……』
「……プッ!ハッハハハ!助けてだと!?
ハッハハハハハ!!」
『タスケテ!』
「……失敗作だなこれは。だが、まぁいい。
使い道はあるさ。しかし……なんとも滑稽じゃないか!クハハハハハ!」
そう言ってヴィランは大ガラスの頭を撫でた。
『タスケテ……タスケテ……タスケテ……』
最後までお読みいただきありがとうございます!
「少しでも面白い」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ぜひページ下部にある
【ブックマークに追加】
をポチッと押していただけると、めちゃくちゃ執筆の励みになります!
下にある評価の星(★★★★★)での応援も、あわせてよろしくお願いします!




