第14話 食えない書記長と裏の計算
「はじめまして。俺の名はフランク。生徒会で書記長を務めている者だよ」
「フランクさん?……あ、コレットちゃんがよく言っていた『食えない書記長さん』って、あなたのことですか?」
セシルはぽんっと手を叩き、目を輝かせた。
「……コレット、君は裏で俺をどう紹介しているんだい?」
「え? 事実でしょ! 全然間違ってないじゃない! 魔法もない、スキルもないヤツが、生徒会の書記長に選ばれるなんて……この学園始まって以来の珍事だからね。みんな食えないヤツだって思うわよ」
「それは褒めてるのか? けなしてるのか?」
「両方よ!」
「フフフ!」
その時、セシルの腹がくぅ~っと可愛らしい音を立てた。
「……あ!」
「……ふふ、確かにお腹が空く時間だな。座って食べようか」
「うん! 私、お腹ペコペコ!」
3人はベンチに腰を下ろし、お弁当を広げた。フランクはコレットの隣に、コレットはセシルの隣に座る。
「いただきます! う~~ん! おいしい!」
「ホント! 私、こんなご馳走はじめてかも!」
「モグモグ……それは意外な発言だな」
食事を口に運びながら、俺の頭の中では冷徹な計算が始まっていた。
情報戦の幕開けである。
「え? そうですか?」
「ああ。冒険者なら、もっと美味いものを食っていると思っていたが」
「ううん。普段は毎日、薄い野菜スープと硬い乾燥パンだよ。こんな豪華なお弁当なんて滅多に食べられないもん」
「へぇ……冒険者の懐事情も楽じゃないんだな。良かったら、この肉食べる?柔らかくて美味しいよ」
「え?いいの!?ありがとう!!」
これで少しは懐に入り込めたかな?
どうかな?
「う~~~~~~ん!!美味しいぃぃぃ!!」
「ははっ!だろう?」
効果は抜群だ。
(いいぞ……良い娘だ……そのまま心をさらけ出せ)
「ちょっと!なによイヤらしい目して!」
「うっ!?な、なにを言ってるんだコレット!!下心なんてないよ!?」
「ウソ! そんな顔してた!」
コレットはセシルを庇うようにすっと肩を並べ、俺を鋭いジト目で威嚇してくる。
こちらの正体に気付いた?
(いや、待て!?……なるほど。コレットの表情から察すると、どうやら我らが風紀委員長様は、セシルに……恋心を抱いているようだ)
俺は肩をすくめ、苦笑いを浮かべて両手を上げた。
「言いがかりはやめてくれ。俺はただ、風紀委員長の大切な友人に親愛を示しただけさ」
「ふんっ! セシル、この男に変な気を持たせちゃダメだからね! こいつ、本当に食えないんだから!」
「ふふっ、大丈夫だよコレットちゃん。フランクさん、お肉とっても美味しかったです!」
セシルがニコッと無邪気に笑うと、コレットは一瞬で毒気を抜かれたように顔をほころばせ、頬を少し赤らめた。
(素晴らしい反応だ、コレット……君のその感情、利用させてもらうよ)
俺は小さく咳払いをし、お茶を一口すすってから、探るような視線をセシルに向けた。
「……しかし、冒険者の生活がそれほど厳しいとはな。『陽だまりの旅団』は、最近良い依頼に恵まれていないのかい?」
「う~ん……受けたい依頼はあるんですけど、装備を整えるお金が足りなくて……」
セシルは困ったように眉を下げ、お弁当の箸を止めた。
「実はこの前、ダンジョンの奥で珍しいお宝を手に入れたんです。それを高く売れれば、みんなに新しい装備を買ってあげられる……父にそう言ったんですけど……」
『それはお前のモノだ。持っていなさい』
「へぇ~~そう言われたんだ。
良かったら見せてくれない?そのお宝」
「ちょっとフランク!図々しいわよ、あなた」
「良いじゃないか別に!減るもんじゃなし!」
「…………」
セシルは申し訳なさそうに視線を落とし、指先を小さくもじもじと動かした。
「……見せてあげたいのは山々なんですけど……」
「……?」
(おいおいお嬢さん……なんだその反応は……嫌な予感がするぞ)
「実はね……昨日、とある廃墟に落としちゃって……」
「え!? そいつは大変じゃないか!!」
「廃墟ってどこ!? 一緒に探しに行きましょ!!」
「ええ!? そんなの申し訳ないよ、コレットちゃん!」
「なに言ってるの! 苦労して手に入れたんでしょう!? 勿体ないじゃない!」
「……確かに、コレットの言う通りだ。実に勿体ない。一刻も早く回収すべきだね。どこに落としたんだい?」
「……嘆きの館……」
「ああ!あそこね!すぐ近くじゃないか!」
(回収されていなければ良いが……)
それより嘆きの館か。
確か、数十年前……山賊が押し入って花嫁が殺され悪霊になったとか。
殺しても殺しても何度も復活するから冒険者やここの生徒たちが経験値集めの狩り場として使われている。
(実にくだらない……なにが経験値集めだ。
死者を冒涜していいのはネクロマンサーだけだ!俺だけの特権なんだよ!)
「今日中に探しに行ったほうが良いね。放課後、一緒に行きましょう!」
「ええ!? で、でも、コレットちゃんは風紀委員の仕事もあるんじゃ……」
「そんなのサボ……じゃなくて、特別業務! 友達の危機を救うのも風紀委員長の務めよ!」
「……コレットちゃん……」
「……つまり、俺が君の業務をやれと?」
「お願い!!フランク!!」
「はぁ……わかったよ。任された。
ただし、条件がある!セシルさん、君のお宝をぜひ拝見したい!良いかな?ダンジョンのお宝って見たことなくて!」
偽物を作らねば。
感触、重さ、見た目、全てを把握した上で誰にも気付かれず、そっと本物とすり替えるのが俺の美学さ。
「それくらいなら喜んで!」
「クククッ!期待しているよ!
さて、と。じゃあ、俺はこの辺で失礼させてもらう。ちょっとした用事を思い出したから」
「え?なによつれないわね。……もっといてもいいのよ?」
すれ違いざま、俺はコレットの耳元へ小さく囁く。
「……邪魔者は退散するよ。2人の時間を楽しんでくれ」
「なっ……!? べ、別にそんなんじゃないわよ!」
顔を真っ赤にするコレットを背に、俺は中庭を後にした。
人気のない校舎の裏へと足を進めながら、爽やかな先輩の笑みをすっと消し去る。
そして、ポケットから黒い指輪を取り出しはめた。
俺はプロだ。自分で泥を被って廃墟を探すような愚は犯さない。
「さて……万が一に備えて、監視の『目』を送りつけるか」
この黒い指輪は前の世界にあったスマートウォッチを参考にして作った代物だ。
「……時は金なり……」
音声認証で起動する。
『暗証番号ヲオ願イシマス』
「6666」
『はい。こちら闇ギルド受付カウンターです』
「俺だ。No.453と……あと、ストーンゴーレムを50体……嘆きの館に向かわせてくれ」
『ストーンゴーレムはそのままの状態で?』
「いや。携帯用にしてモンスターに持たせろ。
到着次第、俺に連絡をいれろと伝えてくれ」
『かしこまりました。それと……ギルドマスターから伝言を預かっております。至急、鐘なしの教会に来てくれとの事です』
「……わかった」
『以上でよろしいでしょうか?』
「ああ。通信を切るぞ。次の暗証番号は?」
『お待ちを……』
カチャカチャという機械音がスピーカーから流れてくる。
『次の暗証番号は2917です』
「……よし。通信終了」
黒い石が静かに光を失い、通信が切れる。
「……このタイミングで呼び出すとは……依頼内容の変更かな?だとしたら実に喜ばしいが……まぁいい。とりあえず向かうとしよう」
眉をひそめつつ、俺はヴィランへと変身し、冥界の杖で地面を叩いて瞬間移動した。
だがこの時俺は気付かなかった――完璧だと思っていた計画に、綻びが見えはじめていたということに。
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