第13話 冒険者 セシル
神炎学園生徒会風紀委員長、コレット。
彼女は一部の堅物どもには嫌われている。
しかし、大半の生徒からはというと――
「あ! 後輩! その髪型似合ってんじゃん!」
「あんがと、先輩!」
「お~~い、そこの不良共! 制服着崩すのはいいけど、先生の前ではすんなよ! 見つかったらまた面倒なことになるからね!」
「わかってるって!コレット先輩!」
「ヒヒッ! 適当にやるから心配すんなって!」
「よろしくぅ〜〜!」
人気者の風紀委員長の後ろを歩きながら、俺は苦笑交じりに呟いた。
「……好かれてるな、風紀委員長」
「ん? 当然でしょ! 規則ばっか守ってたら、私らの青春が台無しになるでしょうが!」
「あのさ、前から聞きたいことがあったんだが……青春ってなに?」
「はぁ? わかんないわけ?」
「あ、ああ……教えてくれるかい?」
「……う~~ん……」
コレットが答えに詰まりながら学食のカウンターに辿り着くと、食堂のおばちゃんが明るく声をかけてきた。
「いらっしゃい、何にする?」
「スペシャルランチを2つ……」
俺が財布を出しながら注文しかけると、コレットが割り込んでくる。
「3つで! 2つはお弁当用にして下さい!」
「はいはい、ちょっと待っててね」
手際よく注文を受けるおばちゃんを見送り、俺は隣のコレットに視線を向けた。
「……2つは食い過ぎじゃないか?」
俺の言葉に、コレットはちょっとムッとした顔で振り返る。
「失礼ね! 友達と一緒に食べるの!」
「友達?」
「そう!セシルって言うの!私の幼なじみなんだ!」
「セシル?……セシル……どこかで……」
「ふふん!陽だまりの旅団!
そう言えば……わかるかしらね?」
「陽だまり!?」
ターゲットがリーダーを務める、あの冒険者パーティか!?
(……くくっ、こいつは幸先が良いぞ!)
俺はすぐさまおばちゃんに向き直り、爽やかな笑みを向けた。
「おばちゃん! 俺のもお持ち帰りに変更してくれないか?」
「ええっ!? 今から作るんだから、そんな急に変更なんて無理だよ!」
「そうだよフランク! 自分勝手なこと言わないの!」
あきれ顔のコレットとおばちゃんに対し、俺はすっと姿勢を正し、胸を張ってみせた。
「失礼、名乗るのが遅れました。……私、今期より生徒会書記長を務めさせていただいております、フランクと申します。食堂の皆様の温かいご飯にはいつも感謝しております。以後、よろしくお願いいたします!」
「え? し、書記長さん!? ええっ!?」
「なっ……!? ちょっとフランク、何権力使おうとしてんのよ!?」
「おいおい、変な言いがかりはやめてくれ。
俺はただ名乗っただけだよ?
そうでしょう?おばちゃん」
「……そうだね!そういや、急に弁当を作りたくなっちまった!あんたが良ければだけど、構わないかい?それで!」
「お願いします」
――数分後。
「はいよ、スペシャルランチお弁当3つね! 毎度あり!」
「ありがとうございます」
ほかほかの弁当箱を3つ受け取り、俺はスマートに会計を済ませた。
ほくほく顔で学食の出口へ歩き出す俺の横で、コレットがジト目を向けてくる。
「なんだい?」
「別に……ただ、そういう青春もあるんだなぁって思っただけ!」
「青春!?……俺は、青春していたのか? いつ?」
「気にしないで。これはただの私の価値観だから……さっきのやり取り、楽しそうだったなぁって、そう思っただけ」
「……ふむ。さっぱりわからない。楽しいことが青春? 君はそう言いたいのか?」
「うん! そういうものじゃない? 私はそう思ってるよ!」
「……ふむ……」
楽しいことが青春、だと?
楽しかったこと……妻に出会えたこと……?
いや、それ以前……
『俺はお前を真の心の友だと思っている!』
『あなたとの出会いを神に感謝しなくてはね! 私たちの未来は明るいわ!』
『俺たちで、世界を手に入れてやろうぜ!』
ボビー……レイラ……マッシュ!
お前たちとの出会い、そして、いくつもの苦難を共に乗り越えた……あの不遇の時間こそが、もっとも充実していた。
うん、楽しかったよ。
だからこそ――貴様らに殺意が湧くのだ。
(よくも……裏切ってくれたな……!)
黒い感情を胸の奥へ押し殺し、俺は隣を歩くコレットに問いかけた。
「青春ってのは、自分の価値観で決めていいのかい?」
「ん? いいと思うよ」
「じゃあ、俺の青春は……苦痛と絶望を味わい、それを乗り越えること、かな?」
「…………」
「なんだよ? その意外って顔は……」
「い、いや!! だって、あなたの口からそんな重い言葉が出てくるなんて思わなかったんだもの。もっと楽なこと考えなよ~!」
「勿論、ソレも考えてるよ。
でもさ、人生ってそんなに甘くないだろ?
だから、そういうことも考えなきゃって……」
「ふ~~ん……なんか親父臭い」
「うっ!?そ、そうかな?」
「……で、なんであんたまで付いてくるわけ? まさか、まだあったことがないセシルを口説こうとしてるんじゃないでしょうね? 」
「まさか。風紀委員長のご友人に挨拶くらいしておこうと思っただけさ。……どこで食べようとしてるんだ?」
「中庭の大きな木の下よ……ほら、あそこ!」
廊下を抜け、日差しが眩しい中庭へと足を踏み入れる。
木漏れ日が揺れる大きな木の下、ベンチにちょこんと座り、膝の上で手を揃えて待っている少女の姿があった。
可憐で、おしとやかで……どこか浮世離れした雰囲気を纏う少女。
しかし、ボロボロの胸当てや身なりから、一目で冒険者だと見て取れる。
(間違いない。ターゲットの娘だ……しかし)
本来なら平民が足を踏み入れることすら許されない特権階級の学園だ。
俺は歩みを止めず、隣のコレットへ視線だけを向けた。
「おい、コレット。平民をこの学園に入れたのか?」
「大丈夫! ちゃんと実力を認められた特待生枠だし、学園からの許可ももらってるから!」
「そうか……それなら良いが……」
俺たちが近づいてくるのに気づくと、ベンチの少女はぱっと表情を明るくし、ちょこんと立ち上がった。
「コレットちゃん!……っと、そちらの方は?」
「はじめまして。俺の名はフランク。生徒会で書記長を務めている者だよ」
ぺこりとお辞儀をする彼女の胸元へ、俺はさりげなく視線を滑らせる。
(情報によれば、顧客から奪ったモノは彼女が持っているらしい。青い宝石の首飾りらしいが……首飾りを着けていないな。ポケットの中か? それとも家にあるのかな?)
……時は金なり……
探りを入れてみよう。
調べる時間が省けるかもしれない。
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