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我が名はヴィラン ~異世界でモンスターを売る武器商人~  作者: 東西南北


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第10話 内紛と好々爺


「貴様かぁーーー!!

神聖なる我ら勇者に刃を向けたのはぁーーー!!」


黒木舞が凄まじい超脚力でヴィランの真上に迫る。


(……もう少しやりたかったが……残念だ)


迫る刃を前に、ヴィランはただ静かに【転移】を念じた。

すでに準備は終わっている。先ほど地面を叩いた時点で、発動の起点(フラグ)は完成していたのだ。

瞬間、ヴィランの身体が漆黒の闇となって虚空へ溶け散る。


「――なっ!?」


手応えのない手応え。

空を切った黒木舞の必殺の一撃が、誰もいない床を虚しく砕き割った。


「奴はどこに!?」


キョロキョロと辺りを見回す舞。

その無防備な背中へ、マッシュの容赦ない蹴り込みが叩き込まれた。


「ぐはっ!?」


激しい衝撃に耐えかね、舞はその場に勢いよくうつ伏せに倒れ込む。


「なにやってんだてめえ!! あの野郎を逃がしやがって!!」


「ち、ちょっと待って――!?」


痛みに耐えながら顔を上げ、必死に弁明しようとする舞。

だが、血走った目のマッシュは一切容赦しない。

振り上げられた足が、彼女のたくましい顔面を容赦なく踏み砕くように撃ち抜かれた。


「ぐっ!?ぐすっ!!」


目に涙を溜め、鼻血を出しながら舞は言った。


「あんたらを守ろうと、必死で駆けつけたのに……ッ!!」


それを聞いたマッシュはさらに激怒した。


「守るだぁ!?」


舞の腹部を何度も蹴りつける。


「あぐぅ!?がぁ!?」


「ふざけんな!!

敵(ヴィラン)も殺してこそ毒蛇の牙だろうが!!

役立たずのウスノロめ!!

てめえは降格だぁぁ!!」


最後には舞の顔面に唾を吐き捨てる。


「……けっ!」


「う、うう!」


(ひ、ひどい……)


ローズは一部始終見つめていたが、彼女は再びただ怯え立ち尽くすことしか出来なかった。

当然だ。

一介の生徒になにが出来る?何が言える?


「おい!一体これはどういうことかね!?」


「説明をお願いしたい!!マッシュ殿!!」


ゾロゾロとマッシュの周りを貴族たちが囲む。


「あぁ!?説明だぁ!?見ればわかるだろうが!!襲われたんだよ!!」


「なにを開き直っておるんだ貴様!!」


「それでも勇者なの!?」


「事前に防げなかったのか!?」


「これでは、あなた方に娘や息子を任せられませんな!!」


そう言われた瞬間、マッシュの中のナニかがキレた。


「……偉そうにべちゃくちゃ喋りやがって」


空気が冷たく重くなるのを、詰め寄っていた貴族たちは肌で感じた。


「……殺す」


背中が禍々しく隆起し、圧倒的な殺気が空間を支配する。貴族たちが思わず息を呑み、後ずさったその瞬間――


「お怪我はありませんか!? マッシュ殿!!」


人群れを押し分け、慌てて駆け寄ってきたのはドイル伯爵であった。

整えられた見事な白い蓄え髭に、仕立ての良い上質な貴族服。

目元には柔らかな皺を刻み、いかにも虫も殺せぬ好々爺といった、優しく誠実そうな風貌の紳士だ。


「ドイル卿!?」


「ドイル伯!?」


マッシュは静かに目を細め、殺気を抑え込んだ。


「……ジジイか……」


「おお、良かった! お怪我はなさそうですな!

ですが念のため、すぐに治癒師の診察をお受けになってください! 我らの希望たる勇者殿に、万が一があっては一大事……そうであろう諸君!」


ドイル伯は背後の貴族たちを振り返り、優しくも凛とした声で問いかける。


「いえ……しかし、それは……」


怯みつつも食い下がろうとする貴族に対し、ドイル伯は表情を一切崩さずに言葉を重ねた。


「なんだね? 不服かね?

私の息子は彼らと共に戦い、名誉の死を遂げたのだぞ。勇者殿を信じてお支えし、共にこの難局を乗り越えることこそ我ら貴族の誉れ……違うかね?」


実際に身内を失ったドイル伯にそう言われては、他の貴族たちはぐうの音も出ない。

一瞬の沈黙の後、マッシュはフンと鼻を鳴らした。

ドイル伯の差し出した大義名分に乗り、貴族どもを黙らせる手打ちに応じたのだ。


「おい、じじい!!……今日は飲むぞ!!

宴会場を用意しておけ!!いつも通りにな!!

気分が悪い!!」


そう言って、マッシュは周囲の貴族たちを一瞥もしないまま、横暴に言い放つ。


「承知致しました。いつもの通りに……」


ドイル伯は恭しく深々と頭を下げた。

柔らかな笑みを浮かべたその表情の裏で、どのような感情を殺しているのか、察する者は誰もいない。


「チッ! ボビーとレイラはどこだ!?

……いつまで倒れてんだ、舞!!

さっさと探すのを手伝えウスノロ!!」


「は、はいっ……すぐ、すぐに……ッ」


痛む身体を引きずり、血と涙を拭いながら必死に立ち上がる舞。

その姿を背に、マッシュは大股で去っていく。


「……さぁ、諸君!我々も生徒たちと共に行動しよう!ヴィランの手下がまだいるやも知れん!気をつけて事に当たってくれ!」


「はっ!」


「お任せを!」


貴族たちにテキパキと指示を飛ばすドイル伯のもとへ、ローズが駆け寄る。


「ドイル叔父さま!」


「おお!ローズ!無事だったのか!」


「はい!叔父さまは?」


「大事ない。戦況はどうなっとる?」


「こちら側が圧倒的に優勢ですわ。ただ、怪我人が多くて……」


「怪我人?……死者はいないのかね?」


「ええ……不幸中の幸いでした」


「……そう、か……」


「……? どうかなさいました?」


「ん? いや、怪我をした方々の事を思うとな」


「……相変わらず自分よりも他人を優先なさるのですね」


「当たり前だ。それが紳士と言うものだよ、ローズ」


そう言って見せる目元の皺は、いつもの温和な叔父そのものだった。

息子を失い、自邸に閉じこもっていた頃の影はどこにもない。

立ち直ってくれたのだという喜びに、ローズは深く胸を撫でおろした。


「ふふ……相変わらずですわね。叔父さま」


ローズは安堵の微笑みを浮かべた。


「ローズ会長!!」


「フランク!?」


「ご無事でしたか!!良かった!!」


「誰かね?」


「フランクって言います。この学園の書記長を勤めています。……体は大丈夫?」


「はい。なんとか……なにかお手伝いすることはありませんか?」


「手伝いって……あなた魔法使えないじゃない」


「それでも……できることはあるはずです!」


「……フランク……」


「フフフ、勇者じゃのう、君は。

では、まずは負傷者の数を把握しなくてはな。

手伝ってくれるか?」


「ええ……喜んで」



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