第9話 ステータスオープン!
マッシュは片手で抱えていた太一の首を、天井へ向かって放り投げる。
それと同時に、肩にいた大ガラスが羽ばたき、空中でその首を掴み直した。
その一瞬を逃さず、マッシュは両手を天高く掲げる。
直後、その掌を中心に猛烈な魔法の炎が爆炎を上げて渦を巻き始めた。
『ガアアアアア!?』
大ガラスは太一の首と共に爆炎に巻き込まれ、叫びを上げて消し炭となる。
ごうごうと音を立てて体育館の天井を舐める熱風に、客席の貴族や生徒たちから悲鳴が上がった。
「ちょっ!? やめなさいマッシュ!!」
「この体育館ごと火の海になるぞ!?」
必死で制止しようと叫ぶボビーとレイラ。
だが、仲間を殺され、さらに大勢の貴族の前で恥をかかされたマッシュの耳には、もはや何の言葉も届いていなかった。
「うるせえ!! 黙って見てろ!!」
ギラギラと血走った目でヴィランを睨みつけるマッシュ。
しかし、当のヴィランは炎の熱圧を浴びながらも、ドクロの仮面の奥で嘲笑うように肩をすくめていた。
「やれやれ……熱いじゃないか 」
「くたばりやがれ!!
ファイヤーサイクロン!!」
猛烈な炎の竜巻がヴィランを飲み込む。
だが、ヴィランの纏う【冥界の衣】の前では、その絶大な熱圧すら虚空へ霧散するのみだった。
「き、消えただと……!?」
「今度は、こちらの番だ」
ヴィランが指をパチンと鳴らす。
その合図とともに、天井の暗闇から白いフードを被った3体のメタルゴーレムが躍り出た。
空中でアクロバティックに体を高速回転させながら舞い降り……寸分の狂いもなくスタイリッシュに着地を決めた。
『フンッ!』
『タァッ!』
『ヤァッ!』
軽快な掛け声とともに、白いフードを投げ捨て、キレのある動作で戦闘構えをとる3体。
と同時に、懐から取り出した何十個もの黒い小石を、生徒や貴族たちが押し合いへし合いしている後方へと無造作に放り投げた。
……それは一瞬の出来事だった。
床に転がった黒石からドロリと黒い液体が溢れ出たかと思うと、一気に凝固し、次々と異形の肉体を形成していく。
目も、鼻も、口すらない、平坦で灰色の石の面。
そこに刻まれた一本の歪んだ亀裂だけを不気味に蠢かせ、角ばった石の四肢を持つ細身の怪異が、体育館の退路を完全に埋め尽くした。
カラカラカラ……カタカタカタッ……!
一切の感情も声もなく、ただ乾いた石の擦れ合う不快な音だけを響かせて、無機質な石兵たちが立ち塞がる。
「ひっ、ヒィィィッ!? な、なんだこいつらは!?」
「後ろに逃げられないぞ!? 囲まれたっ!!」
逃げ場を失った生徒や貴族たちから悲鳴が上がる。
「ストーンゴーレム。見ての通り、声すら持たない無機質な兵たちだ!」
ヴィランはマッシュたちを威圧するように、冥界の杖でコツンと地面を叩く。
「っ!? て、てめえ!!」
「おいおい……驚くのはまだ早いぞ?」
ヴィランは空いた手を前にかざし、低く呟いた。
「……ステータスオープン!」
虚空に浮かび上がる、3枚の青白いステータスウィンドウ。
ヴィランはドクロの仮面の奥で怪しく目を光らせ、3体のメタルゴーレムへ命じた。
「目の前の3人に抱きつけ」
『ギィッ!』
質量を無視した超高速のステップ。
3体のゴーレムは残像を残して肉薄すると、抵抗する隙すら与えず、マッシュ、ボビー、レイラの背後に回ってその身体をがっちりと拘束した。
「きゃっ!?」
「は、離せ!!」
「ちぃぃっ! 離れろクソが!!」
もがく3人を冷ややかに見下ろしながら、ヴィランは宙に浮かぶステータス画面を迷いなくフリックしていく。
「これでもない……あれでもない……どこだったかな。……ああ、これだこれだ」
「おい!? さっきから何やってやがる!?」
「見て分からないか? ステータスウィンドウを弄ってるんだよ。自爆魔法メガンド……発動」
瞬間、3体のメタルゴーレムの全身が目も眩むような白光に包まれ……爆発した。
轟音とともに激しい衝撃波が吹き荒れ、体育館の床が粉々に吹き飛ぶ。
「マ、マッシュ様!?」
恐怖で固まっていたローズが、煙の上がる壇上へ悲鳴を上げながら駆け寄る。
あの爆発だ、無事ではすまないと誰もがそう思った。しかし、それは杞憂だった。
風が吹き抜け、土煙が晴れていくと……そこには過剰なまでの魔力障壁を張り展開し、身を縮めている3人の姿があった。
「良かった!3人共無事だわ!」
「……これ程の防御力とはな」
企みが防がれたというのに、ヴィランの瞳はさらに紅く、愉悦に満ちて輝いていた。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「し、死ぬかと思ったぜ……っ!」
「……キレたぜ。マジで俺を怒らせやがったな……」
マッシュから放たれる異様な殺気に、ローズは息を呑み固まる。
煙の奥から一歩踏み出したマッシュは、血走った目でヴィランを歪んだ笑みで見下ろした。
「……どうだ? これが俺たちとてめえとの格の違いだ!! てめえのセコい細工なんざ、ハナから屁でもねえんだよ!!」
「はっははは! 格の違い、だって? そんなもの……」
ヴィランが失笑を漏らしかけた、その瞬間だった。
後方の貴族や生徒たちの中から、一際にぎやかな歓声が湧き上がる。
『スケルトンだぁ!!』
『味方だ! 攻撃するな! 奴らは俺たちの味方だぞ!!』
「なに……?」
わずかに首を巡らせ、生徒たちの方へと視線を向けるヴィラン。
体育館の入り口から雪崩れ込んできたのは、刀や剣を手にした無数の骸骨剣士たち。
精悍な身構えで、退路を塞いでいたストーンゴーレムたちへ一斉に襲いかかり、硬質な骨の刃で次々と粉砕していく。
(黒木舞のスケルトンか……)
それだけにとどまらない。
勢気付いた生徒たちも次々と魔法や武器を放ち、石の兵卒たちを押し潰していく。
『おっしゃあ!! これで10体目ぇッ!!』
『みんな!! 私に続いて!! やっつけましょう!!』
歓声と爆音、そして砕け散る石の音が体育館を包み込む。
(……彼らを舐めていたわけではないが……)
白煙の向こうで全滅していくストーンゴーレムを見届けながら、ヴィランは仮面の奥で呟いた。
「想定より、早く決着がついたか」
(……目的は達成した。この開会式を絶望に染めてやった!ここらが潮時だろう。
しかし……あと一押し……もう一押し……っ!!)
「……欲しいなぁ。絶望が!!」
ドクロの仮面の目が怪しく赤く輝いた。
ステータスオープンを起爆装置みたいにしたくてこの題名にしてみました。
詳しい説明とか必要だと思っていただければ幸いです。最後までお読みいただきありがとうございます!
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