始まりはいつも雲の上
四月初旬、須舘家に真望と癒澄が来て、劉家の迎えを待つために前日に泊まりに来ている
そこに夕方近くに騒々しい声が屋敷に響く
「ですから!!あの混血が神華牡丹学園に行けてなぜウチの坊やがダメなんですの!!
エコ贔屓をするなんて!宰相として恥ずかしくないんですの!!」
どうしたのだろうと千李達で玄関を覗けば、厚化粧にブランド品に身を包んだ派手な女性と
ふんぞり返っているその人の息子のような少年、その二人の前で目頭をもむ飛鳥が居る
「うわ、また来たよ」
千李がげんなりとして言う
「あれは誰だい?ずいぶんな物言いだけど」
真望の問いに美羽が答える
「私達の幼馴染?かなぁ幼稚園のころからずっとクラス一緒なのよねぇ、悪縁よ」
美羽がずいぶんと迷惑そうに言う
「あいつ事あるごとに、僕に突っかかってきて美羽の事、狙っているんだよ」
それに癒澄が笑う
「せんりんイジメたらみわわが惚れてくれると思っているの?なんか可哀想」
確かに、と4人はクスクス笑う
そこに少し苛立った飛鳥の声が聞こえる
「ですから、学園の入学に関しては政府の入る余地はないんです、学園側が決めることですので、私どもに言われても紫福君の編入を助ける事は出来ないんです」
飛鳥の回答に女性は激怒する
「ですから!学園には、お手紙送りましたのに、狗炎様からは無理だと言われたのですよ!
なのに清家の汚点である混血が入学していると言うではないですか!!あなたが手を回したとしか思えませんわ!!」
女性の横で少年がうんうんとうなずいた時に、こちらに気が付く
そしてニヤッと笑って母親を置いてこちらに来る
「げ、こっち来た」
千李がわかりやすいくらい顔を歪める
「美羽様、こんにちは、今日も美しいですね、
そちらはご学友の方ですか?」
ニヤニヤとした笑みを癒澄に向けるものだから、癒澄は悪寒が走って真望に抱き着く
そんな癒澄を見て何かひらめいた様に紫福が言う
「あ!その髪は綾家の方ですね!!風の御三家の綾家の方とお会いできるとは!!」
紫福は無理やり癒澄の手を取って握るものだから、真望がその手首を強く持つ
「いった!何するんだよ!!」
紫福がその手を振りほどいて自分の手首をかばった時に真望が癒澄の前にでる
「彼女が嫌がっているのに無理矢理手を取るのはいただけないなぁ、本当の紳士ならば事前に許可を取るものだと俺は思うんだ、同じ紳士ならばわかってくれるね?」
紫福はチッと舌打ちをする
「どこの誰かは知らないが、もっともな意見だな、綾家の姫様、先ほどの無礼お許しください」
紫福は少し会釈をして癒澄に許しを請う
「う、うん、いいよ」
癒澄はそう言いながらも真望の後ろに隠れる
そんな癒澄の姿にむすっと不機嫌を隠さない紫福は、まぁいいかと美羽の方を向くが、美羽も千李の後ろに隠れている、紫福はそんな姿にイラっとして千李を攻撃する
「千李は不正して入学できたみたいだけど上手く学園で生活できているのか?高貴な花の血の園で迫害されてどうせ今まで通りに美羽様の腰巾着しているんだろ、まさかお友達も穢れているんじゃないのか?」
ニヤニヤと挑発するものだから、千李がこぶしを握るが、美羽に手を握られて、冷静になる
挑発に乗ってこなかった千李に紫福は舌打ちをする
そこに真望の笑い声が聞こえる
「ははは、君の言う通りだよ、千李君に負けて悔しいのに俺にも負けているようだね、俺は日本人だからね」
紫福は目を大きく開ける
「な!!なんで日本人が神華学園に通えるんだ!!」
「わかっていないな、神華牡丹学園は才能の学園、才能さえあれば通えるんだ、千李君は刀激戦の天才だ、僕も水の扱いは得意でね、後は人体構造にも詳しいんだよ、試してみるかい?」
真望の鋭い目に紫福はたじろぐ、
その瞬間を見逃さなかった真望
「そんなに興奮するなよ、瞳孔が開いている、怖がりすぎじゃないか?」
鼻で笑う真望にビクッとしながらも紫福は反論する
「こ、怖がってなんかいない!!」
「そうかい?産毛が総立ちだ、鳥肌がすごいね、」
真望がそ言うので紫福は自分の腕を見ると確かに鳥肌が立っている
なんで、そう思って真望を見れば目つきは鋭いままに口元がにやける
「どうした?汗が出てきているみたいだ、具合でも悪いのか?」
「は?・・・・!?」
紫福が反論しようとしたら、ツーと顔を水の流れる感覚
額をぬぐうと濡れている
「な、なんで!?」
「おや?そのズボンは急いで着替えた方が良いな、床も濡れているぞ?」
真望にそう言われて慌ててズボンを確認すれば、股から濡れて足の下では水たまりが出来ている
「う、ま、ままあああああ!!」
紫福が大声で泣くものだから、慌てて紫福の母親が駆け寄ってくる
「まぁ!!紫福ちゃん!!何があったの!?おもらしなんて!!どうしたの!」
紫福は、真望を指さす
「あ、あの日本人がぼ、僕を脅したんだぁ!!わあああ!!」
もう、大泣きだ、さっきまでの尊大な態度は何だったのか、わんわん泣きながら、真望を指さす
「まぁ!!美羽様!混血だけならまだよろしいのに!!猿とまでお付き合いされているのですか!?しかも脅しをするような野蛮な者と!!」
紫福の母親の言葉に美羽は冷たく言う
「脅しなんてしていませんよ、真望君はただ、才能ある人は神牡に通えると言っただけです、それで真望君が紫福君の体の様子を言っただですよ」
美羽がそういうので、紫福は顔を赤くする
「まぁ、そんなことで?紫福ちゃん本当なの?」
紫福は、美羽の冷たい顔に震えながら首を振る
「あ、あいつ人体構造に詳しいって言って鳥肌が立っているとか、汗出てるとか言ってきて・・・・」
「それだけ?」
「あ、あ、でも」
狼狽える紫福に母親はため息をつく、そして美羽の方を向き直る
「美羽様、愚息のお恥ずかしい姿をお見せしてしまってごめんなさいね、でも美羽様も混血や猿とのお付き合いなど花の枯れるようなことなさらない方が良いわ、さ、紫福ちゃんお車に行きますよ、執事にお着換え持ってきてもらわないと、まったく恥ずかしいわ、花王教の導師方々になんと言われるか」
そう言いながら母親は紫福の手をひいて帰って行ったのだ、
「華無にも純血とかあるのね」
癒澄がすごく引いた顔をする
「花王教か俺の小学校にもいたな」
やれやれと首を振る真望
「純血の汚点とか、李薇や樂巖の名前を出して臆病者って言ったり本当にうるさいんだ」
イライラして千李は玄関を見る
飛鳥がこちらに来るのが見える
「真望君、追い払ってくれてありがとうね」
ぽんぽんと真望の肩をたたく飛鳥にキリっと真望は言う
「いえ、彼が勝手に漏らしただけなので!」
ははっと飛鳥は笑う
「そうか、それはそうと、そろそろ夕飯だ、食堂に行こうか」
飛鳥にそう言われて、千李達は食堂に向かったのだった。
食事の席で、癒澄が疑問を口にする
「花王教、って何なんですか?うちの家の事を知っているみたいですけど」
それに対して飛鳥が苦い顔をする
「まぁもう君達も2年になるから習うはずだ、癒澄ちゃんは華人史の建国神話を少し知っているかい?」
それに千李が疑問を口にする
「ん?神話が別にあるの?」
その千李の言葉に美羽が千李を小突く
「千李、自分の家紋について知らなすぎるわ」
飛鳥がククッと笑う
「花王教が言っている導師は華人の3狐神獣の家系の人達を指すんだ」
千李は思い出すように空を見つめる
「3狐神獣って最初に生まれた狐炎、風狐、魅美になった水狐の3神獣の事だよね」
それを聞いて癒澄はなるほどぉと言った。
飛鳥がにこっと笑う
「基本神話には語られていないけど華人にはさらに詳しく伝えられる建国神話でね
清、朱軸、獏の三家は狐炎の血筋、
鷺、綾、沢家が風狐の血筋、
そして、王家牡丹、桜の二家が水狐の血筋なんだよ」
「え!?そうなの!?」
千李は心底びっくりした。
飛鳥は話を続ける
「詳しいことは二年生の華人史で習うと思うけど、狐炎御三家の子供と水狐二家と風狐三家の間にできた子供達が大樹の富豪でもあるんだよ」
「あれ?血の繋がりの無い孤児じゃなかったっけ?」
千李の言葉に飛鳥は難しい顔をする
「うーん、そこは難しい話だし、授業で詳しく話されるんだと思うんだ、それで、花王教なんだけどね、花王教は藤の会が、華無ならまだしも、外国の血が入ることを嫌って、華無の者にも花の血を維持させるために、上流階級の者から一般人まで幅広く集めて、王華国の者とだけ付き合い結婚しましょう、って言う純血派が動かしている宗教なんだよ」
そこで真望が驚く
「つまり導師様たちってもしかして純血主義の華人の人達が導いているって事ですか?」
コーヒーを飲みながら飛鳥が言う
「そうだよ、牡丹、桜、綾家の3家以外は確か居るはずさ、今の教祖は獏仙矢、白雅君の父親だね」
それに千李はびっくりする
「え、獏家も?でも白雅さん優しいよ?」
「他の家の教育方針はわからないから、そのあたりはよくわからないんだけど、確か今代当主は放任主義とは聞いているよ、今の代の狐炎血筋は恵まれなかったと貂炎さんがこぼして来たよ」
やれやれと言う顔をする飛鳥に美羽は苦い顔をする
「その人ってもしかして千李と豹炎君のおじいちゃん?」
飛鳥は美羽の眉間に寄せているしわに指を置いてもみほぐす
「確かにあまりいい人ではないけどね、敍樹を狗炎校長に送った人でもあるんだ、本来なら叙樹は、捨て子で須舘を名乗ることになるのが普通だったんだよ」
「そうなの!?」
千李は心底驚く
「僕の父親は清家の捨て子だからね、といっても狗炎校長の子ではなくて分家の子だけれど、純血派としては忌物の神華と切り花は本来、うちに来るか葉人の分家で小間使いなんだ、敍樹は狗炎校長のところに行っただけ幸せだし、貂炎さんは結構千李の事気にかけているよ?」
意外な発言に驚くとともに少し嫌な予感がする
「それはせんりんの力がすごいからですか?」
癒澄の言葉に目を丸くしてから笑う
「あーあの人は俗にいうツンデレだよ、子供みんな可愛いけど、清家のプライドと奥さんのあり方が邪魔して大っぴらに敍樹も千李の事もかわいがれないだけさ、外国の血が混じったのもあまり喜べないみたいだけど千李の事を恨んだりはしていないし、豹炎を後継者から降ろそうとも思っていないよ」
みんな顔を見合わせる
そんな人から猫炎や雪悠が?
The純血派を体現するような性格の二人だった。
それを見て飛鳥は少し難しい顔をする
「清家は長子嫡子の家だからもともと長子以外が家を継ぐことはないよ、でも貂炎の奥さんが朱軸家の出でね、厳しい人だったんだ、ほぼあの人が家を引っ張っている感じだね、雪悠は敍樹が居る間は純血派では無かったって敍樹が言っていたし奥さんの教育だろうね、あの人奥さんに弱いし」
奥さんに弱い、なんだかすごく普通のお父さん見たいな感じで親近感が湧くというか
「あ、千李、貂炎さんが、黒帯な事で落ち込んでいたよ、せめて清家として白だろうとかぶつぶつ言っていたな」
「あ、やっぱりあんまり良い人じゃないや」
こつんと美羽に殴られる
「成績気にしてくれているんだから良い人でしょ!!」
そんな風に話しながら、夜は更けて行ったのだった。
次の朝、千李達は食事を済ませて庭に出ている、今日は飛鳥も時間に余裕があるので一緒に真木達を待つ
千李達が会話していると翔尾が上を見て言う
「お嬢様方、いらっしゃいましたよ」
空を見るとぐんぐんと雲が近づいてくるから、真望のテンションが爆上がりだ
「おおおお!!本当に雲が落ちてくる!!」
感動する真望にキントウンだよ、なんて自慢気に言う千李を美羽は呆れて見る
「おはよー!みんな‼お待たせ!!」
去年と同じに元気よく伽耶が出てくる
「伽耶さん!お久しぶりです!」
美羽がそう言うと伽耶は降りてきて美羽に抱き着く
「みーわちゃん!!2月ぶりねぇ!春休み中遊びに誘えなくてさみしかったわぁ!」
「ニューヨークのおもちゃの祭典見に行っていたんですよね、楽しかったですか?」
美羽がそう伽耶に問うと、悪い男感が消せないイケメンの真木が出てくる
「いやいい勉強になったわ、おかげでこっちに帰ってから圓唎が作業部屋にこもってなかなか出てこねぇからな!!」
笑って言う真木に飛鳥も笑う
「それだけいい刺激だったんだね、」
「おう、華無も侮れねぇよな!」
楽しそうに話す男人とは違って伽耶が不満げに言う
「いい物ができるのはいいけど、生活はちゃんとして欲しいわ、ほっといたら倒れそうになるまで何も食べないんですもの、私が見に行かなかったら死んでいたわ!」
それを聞いて飛鳥はまた笑う
大人が話している間に出てきた岸雄が、荷物を持ってくれるので、子供たちは荷物をキントウンに運び込む
飛鳥は笑い終わってから懐かしむように言う
「相変わらずなんだね、圓唎は」
「笑い事じゃないわ!飛鳥君!!」
「ごめんごめん」
笑いながらふくれっ面になる伽耶に飛鳥は謝る
まるで学生のように話す3人に飛鳥はあんな風に笑うんだと、美羽と千李は目を合わせる
そこに荷物を積み終わった岸雄が声をかける
「まま、ぱぱ、もう行かないと遅れちゃうよ」
岸雄に言われて腕の水晶を見て伽耶が慌てる
「あらこんな時間!もう行かなきゃ!飛鳥君は来られないのよね?」
伽耶の問いに残念そうに飛鳥は言う
「あぁこの後議会でね、まったく、早く膿を出さないとね、何回同じ議題で議会をする気なのか」
笑いながら真木が飛鳥の背中をたたく
「頭の固い爺さんの相手は大変だよな、ははっ、ま、頑張れよ、宰相様!」
そう言いながら真木はキントウンに乗るそれに伽耶も続いて乗る
「じゃぁな!兄弟!爺どもなんて蹴散らしちまえ!!」
「もう!真木君野蛮なこと言わないの!!飛鳥君議会頑張って!!」
伽耶はそう言いながら雲の凹みを持ち上げる
そしてキントウンはどんどん浮いていく
「頑張るよ!子供たちをよろしく!!」
「皆様いってらっしゃいませ!」
飛鳥と翔尾の声が小さくなりながらキントウンは雲の上に行った。
さぁ2年目だ楽しい学園生活に初めての後輩ドキドキとワクワクの高鳴る鼓動を現すように
キントウンはどんどん空に飛んで行く
さぁ何が待ち受けているだろう




