6異世界転生したけど記憶がないので、取り敢えず授業頑張りたいと思います!!②
「…授業の話に戻るが、俺の実技戦闘の授業では美しい魔法ではなく、実用的な魔法を身に着けてもらう。…例えば先程のルノの魔法、あいつの魔力は「測定不能」とされた独特なものだ。そこで『虚数魔力』と仮称させてもらうが、虚数魔力をつかったあいつの魔法は不細工であったが、実用的だ」
ガルド教官はゴツゴツとした指先で顎をさすりながら、黒板に「虚数魔力」と力強い文字を書き殴った。
「シュバルツ家の人間は代々、特異な魔力を持っていることが多いと聞いていたが、この『虚数魔力』は別格だ。他の魔力を打ち消す性質を持っていて、魔法を無に帰す。精錬された無駄のない代物……お前らの目指すべきものだ!」
教官はそう言って満足げに頷き、クラス全員へ視線を向けた。
「お前たちもルノの無駄を極限まで省いた戦い方を限界まで見習え! 無駄な詠唱や派手なポーズにこだわっている奴から戦場で真っ先に死んでいくぞ!」
「「「はいっ!!」」」
生徒たちの威勢の良い返事が教室内に響き渡る。皆がルノを見る目線は天才への畏怖へと変わっていた。
(ねぇ!! なんでそんな目で見るの!? それにガルド教官は詠唱とか要らないって言っていたけど、『地獄の劫火』とかカッコイイ詠唱してたじゃん!!)
「……ちょっと、ルノ。顔色が青白いわよ? 大丈夫?」
隣の席からアリスが心配そうに覗き込んできたが、ルノは引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。
(大丈夫なわけないでしょーーーっ!? 虚数魔力って何!? 不細工だけど実用的って何!? 私はただ死にたくなくて必死に拝んでただけなんだってば!!)
心の中で血の涙を流すルノをよそに、ガルド教官は容赦なく授業を進めていく。
「さて、次は実際に魔法を行使する訓練に入る! 『虚数魔力』の例を見た後では霞むかもしれんが、お前たち凡人は地道に魔力を練り上げる感覚を掴め! 全員、自分の杖を構えろ!」
「「「はいっ!!」」」
生徒たちが一斉に洗練された美しい杖を取り出し、真剣な表情で魔力を込め始める。
隣のアリスも「今度こそ、あんたに追いついてみせるんだから!」と意気込み、自慢の年代物の杖をぴんと構えた。
(あ、圧倒的な疎外感……! みんなマイ杖を持ってるの!? 私、そんなもの支給されてないし持ってきてすら……あ、いや、あるわ。ポケットの中に……)
ルノは、すっかり自分の「触媒」として定着しつつあるポケットの中のドライフラワーを、そっと指先で摘んだ。
周りの生徒たちが「我が命に応えよ、来たれ清廉なる水流!」「爆裂せよ、穿つ風刃!」などと、教官に「無駄だ」と一蹴されたはずの格好良い詠唱を堂々と叫びながら、水球や風の刃を出現させている。
(教官、みんな思いっきり派手な詠唱してますけど!? 全然教えが響いてないよ!!)
ツッコミどころ満載の光景に呆れつつも、ルノは必死だった。もしここで実は杖も持っていませんし魔法も使えませんなんて言ったらどうなるか。
「ハッ、さすがはシュバルツ家の令嬢! 杖という道具にすら頼らず、手の中の微小な『ドライフラワー』を媒介にして魔力を制御しているのか……!」などと、さらなる地獄の誤解を生む未来しか見えない。
(どうしよう……何か出さないと。消すだけじゃなくて、出す方! でも出すって何を……!? 打ち消しの性質を持っているのに、何かを生み出すって無理難題すぎでしょ!! 出す……ぁ、そうだ!)
「お腹が痛いのでトイレに行ってきます!!」
記憶なしの異世界転生者ルノ・シュバルツ。トイレに逃げ込むのだった。
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