5異世界転生したけど記憶がないので、取り敢えず授業頑張りたいと思います!!
「では初回授業を開始する」
入学式の後、ルノとアリスを待ち受けていたのは早速始まる授業だった。入学の余韻に浸る暇もなく高度な教育は行われる。
授業は男女混合で行われる。教室内には貴族生まれの美男美女ばかりだが、一人だけ風貌が違うものがいた。
顔を引き裂くような傷があり、美顔とはあまり言えないが顔は整っている。幼気を残した彼彼女らとは違って、まるで地獄を見てきたかのような修羅の表情をするその男こそが、この授業の教師だ。
「俺は実技戦闘の担当、ガルド・シェレッドだ。……お前らの中には結婚相手探しにこの学校に入学したものから、確固たる信念を持って入学したものまで様々いると思う。故に残酷な事実を見せておく。この額の傷は魔族との戦争で受けたものだ。そして傷は額だけじゃない、数えだしたらきりがねぇ」
ガルド教官はゴツゴツとした手でローブの胸元を少しだけ肌けさせ、そこに刻まれた痛々しい数々の傷痕を生徒たちに見せつけた。
「いいか、戦地に出れば見映えの良い魔術も身分も一切関係ねぇ。あるのは死か、生き残るかだけだ。甘い幻想は今ここで捨てろ。じゃないとあの穢らわしい魔族たちの剣術で殺されるぞ」
ドスの効いた重々しい声が響き渡り、さっきまで私語を交わしていた生徒たちからすっと血の気が引いていく。アリスもまた、息を呑んで杖を握る手にぐっと力を込めた。
(ひえええ……! 先生の圧がすごすぎるよ! 私、結婚相手探しでも確固たる信念でもなく、ただ『流されるまま』来ただけなんですけど!? 逃げ出したいーーーっ! ていうかなんで異世界転生してこんな苦しい思いしてる理由を教えてよ! 私大罪でもおかした!?)
ルノが心の中で叫びながら滝のような冷や汗を流していると、ガルド教官の鋭い眼光がまっすぐに彼女をとらえた。
「おいお前。シュバルツ家の令嬢だな。前に出ろ」
「は、はい!?」
困惑するルノを教官は「いいから前に出ろ」と睨みながら言う。余りにの恐怖で失神しそうになりながらルノは席から立ち、隣のアリスを最後の瞬間を覚悟した目で見て、前に出た。
「こいつ…ルノの一家、シュバルツ家は魔族との戦争で代々大きな功績を残してきた家だ。俺も戦場ではシュバルツ家の天才達にはさんざん助けられてきた。…そこでだシュバルツ家の令嬢。俺の攻撃を一撃、受けてみろ」
ガルド教官は容赦ない言葉とともに、腰に下げた武骨な初心者向けの小さな杖を抜いた。その全身から放たれる圧倒的な殺気に、教室中の空気がピキリと凍りつく。
「ひ……っ!?」
「主よ、矮小なる我が奇跡を見よ。地獄の劫火――」
(待って、怖い怖い。…誰か助けてぇぇぇ」
もうそんな言葉を口に出す余裕はない。
ガルド教官の物騒な詠唱と共に練り上げられていく。巨大な炎の塊がルノから言語を奪っていたのだ。
「――燃え尽きろ!!」
放たれたガルド教官の一撃。それは灼熱を発しながら、一直線にルノに迫る。
ルノは魔法の使い方を知らず、これを打ち消すことができない。故にルノが取った選択は祈りであった。
アリスの魔術はドライフラワーを握りながら祈ることで消えた。ならば今回もと、ルノは同じような行動に出る。
――消えて、お願いっ!!
迫りくる業火の圧力に耐えかね、ルノはギュッと目を瞑り、ポケットの中のドライフラワーを強く握りしめて祈った。
その瞬間――世界から一切の音が消えた。
ドカンという爆発音も、熱風の轟音もない。
ただ、ルノの全身を中心にして、光すら吸い込む漆黒が爆炎を飲み込んだ。
静寂が支配する教室。
ルノがおそるおそる目を開けると、そこには杖を構えた姿勢のまま呆然と固まるガルド教官と、信じられないものを見たように開いた口が塞がらない生徒たちの姿があった。
(え……? また消えた……? た、助かったの……?)
九死に一生を得て胸を撫で下ろそうとしたその時、ガルド教官の顔が歓喜と戦慄で歪んだ。
「やはり素晴らしいシュバルツ家……! 詠唱も構えもなしに、俺の炎魔術を『無』に還したというのか……!?」
ガルド教官の言葉を皮切りに、教室中に衝撃が駆け巡ぐる。
「「す、すごすぎる……! ガルド教官の一撃をあんな一瞬で消滅させるなんて……!」
「これが……名門シュバルツ家の『判定不能』の真力か……!」
「とんでもない天才と同じクラスになってしまったぞ……!」
(ち、ちがーーーーう!! 私はただ『消えて』ってポケットの花を握りしめて祈っただけなのーーーっ!!)
心の中で必死に否定するルノをよそに、教官は破顔して満足そうに深く頷いた。
「見事だ、シュバルツ! お前のような逸材が我がクラスにいるとは実に頼もしい! 本日からお前がこのクラスの筆頭だ!」
「えっ、筆頭!? 私がですか!?」
「異論のある者はおらんはずだ!」
「「「異論なし!!」」」
クラス全員の力強い叫びに、ルノの視界がグラリと揺れた。
駆け寄ってきたアリスも、瞳をこれ以上ないほど輝かせている。
「ルノ……あんた、私を助けるって言ったの、本当に伊達じゃなかったのね……! 私、どこまでもついていくわ!」
(話を聞いてアリスちゃん! 私、魔法の使い方も知らないただの超絶ポンコツ令嬢なのーーーーっ!!)
熱狂と羨望の眼差しを一身に浴びながら、ルノ・シュバルツは白目をむいて崩れ落ちそうになるのを必死で耐えるのだった。
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