4異世界転生したけど記憶がないので、取り敢えず入学式に行きたいと思います!!
少しの間アリスと談笑していると、壇上に一人の老人が上がった。
「新入生の諸君、静粛に!」
老人の声が魔法で拡張され、大ホール全体に深く重々しく響きわたる。
白髪を綺麗に整え、豪奢な式典用ローブを纏ったその人物――王立魔法大学の『学園長』の登場に、あれほどざわついていたホールが一瞬で静まり返った。
(わ、すごい威厳……。流石は学園長)
ルノが息をのんで見上げていると、学園長は静かに全体を見渡したあと、朗々とスピーチを始めた。
「今日から君たちは、歴史あるこの学園の生徒となる。身分や生まれに関わらず、切磋琢磨し、互いの魔術を高め合うことを期待している。……全ては魔族との戦争に勝つためだ!!」
「ねぇアリス。魔族との戦争って何?」
ルノが小声でアリスに耳打ちをした。彼は訝しげな表情をして「ちょっとルノ、正気なの……!?」とアリスは呆れと困惑が混ざった表情で、周囲に聞こえないよう身を乗り出し、小声でまくし立てた。
「魔族との戦争を知らないなんて、どんな温室で育ったらそうなるのよ! 100年前から我が国と隣国の領土を脅かしている、あの恐ろしい魔族たちとの戦いに決まってるじゃない!……箱入り娘でもそのぐらい知っているはずよ」
(えぇ!! そうなの!?!?)
転生したこの世界で取り敢えず生きてみようと、流されるままこの学校に来たルノ。そもそも魔族との戦争のための技術を身につける場所だと知っていれば、こんなところになぞ来てなかった。
(やばいやばいやばい、完全に選択を誤った……!)
冷や汗が背中をダラダラと伝い落ちていくのをルノは感じていた。
ただ「貴族の義務だから」と教えられ、豪華な馬車に乗せられて流れつくままやってきたこの王立魔法学園。まさかその実態が、のんびりキャンパスライフを楽しむ場所ではなく、魔族との過酷な最前線へ送り出すための『士官学校』のような場所だったとは。
(平穏どころの話じゃない! 下手したら死ぬんじゃないの、私!? 前世の記憶もないのに、異世界で命落とすとか笑えないんだけど!)
「⋯⋯けど私は『勇者候補』になれて良かったわ。あのままだったら私はただの平民として戦地で肉壁として使われていただけだから⋯」
彼女の呟きからルノは過酷なものを感じ取った。
「その点、あんた達貴族はいいわね。この大学に来ても将来戦地にいかないことも選択できる。⋯⋯私は戦う道しかないのに」
そうやって悲しげな顔をしたアリスにかける言葉はみつからず、式典の終わりを告げる学園長の声が大ホールに響き渡り、入学式は終わりを迎えた。
二人は沈黙の中歩く。
(私は異世界したけど記憶がなくって、取り敢えず生きようとした。⋯けどこの世界には取り敢えず生きるってことが出来ない人もいるんだ。⋯だったら!)
「私がアリスのことを何とかして助けてあげる! だから任せて!!」
「べ、別に私はそんなの必要としたないわ!!⋯けどありがとう、ルノ⋯」
(⋯⋯って言ったけど! 私転生者なのに前世の知識もこの世界の知識も、なんなら魔法の使い方もしらないんだけど!?)
カッコつけたけど、自分がポンコツすぎることに白眼むいて倒れそうになるのだった。




