3異世界転生したけど記憶がないので、取り敢えず友達を作りたいと思います!!
入学式の会場に着いたルノは、豪華絢爛な大ホールを埋め尽くす新入生たちに驚きながら自分の席についた。
ホールの左右で男女が別れており、ルノ達女子はホールの右側を埋め尽くしていた。またこの学校では身分差はないこと(一応)になっているため、平民と貴族で席は分かれていない。
(隣の子…はどんな子だろう…)
そう思ってふと右隣を見てみれば、金色の髪が揺らいだ。
「あ、あんたは!!」
ルノが何か言うよりもその人は反応した。
「さ、さっきの……!」
思わず声を漏らしたルノの視線の先にいたのは、先ほど門前で果敢にも決闘を挑んできた、あの『勇者候補』の金髪少女だった。
(嘘でしょ……!? こんなに広い会場で、よりによって隣の席になるなんて……!)
少女は一瞬だけ気まずそうに目を泳がせたものの、すぐにぐっと唇を噛み締め、背筋をピンと伸ばしてルノに向き直った。その顔はリンゴのように赤くなっている。
「ふ、ふん! 何よ、文句でもあるわけ!? 席はランダムだって案内されたでしょ! 私が意図して隣に座ったわけじゃないんだからね!」
「い、いえ、別に文句なんて……」
まくし立てる少女の迫力に押され、ルノは引きつった笑みを浮かべながら両手を小さく振る。
(格差のない席順が、まさかこんな形で裏目に出るなんて……。居心地が悪すぎる……!)
少女はルノの手元――先ほど自分の魔法を一瞬で消し去った、あの小さなドライフラワーが握られていないことを確認すると、どこか探るような視線を向けてきた。
「……ねえ。さっきのは、どういうカラクリなの? いきなり私の魔法を無効化するなんて、ただの魔法分解じゃ説明がつかないわ」
「えっと、それは……本当にたまたまというか、祈ったら消えちゃったというか……」
「はあ!? なによそれ、余裕ぶっちゃって! 本当に食えないヤツね……!」
ルノの正直な答えは、手の内を明かさない不気味な強者として解釈されてしまったようだ。少女は悔しそうに拳を握りしめ、フンと鼻を鳴らして前を向く。
「……でも、助かったわ」
「え?」
小さく呟かれた言葉に、ルノは首をかしげた。
「あそこで私のよりもっと凄い魔法を撃たれるより、スマートに抑え込まれたおかげで怪我人も出なかったし。……感謝なんてしてあげないけど、無茶な挑発を受けた挙句、私に恥をかかせない形で処理してくれたことくらい、分かってるわよ」
ツンとすました顔のまま、少女はぷいっと横を向いてしまった。しかし、その耳たぶは少しだけ赤くなっている。
(この子ってもしかしてツンデレ? ……あれ『ツンデレ』ってどういう意味だっけ?)
周囲の貴族たちからの冷ややかな視線や嫌味を背中に受けながらも、前を向いて堂々としている少女の横顔を見て、ルノはほんの少しだけ緊張が解けるのを感じた。
「私はアリス。アリス・ローウェルよ。あなたに決闘を挑んで負けた女。…だ! か! ら! あなたの友達になってあげるわ!!」
「べ、別にあなたが好きになったわけじゃないんだからね! 強い相手の近くにいた方が、私ももっと強くなれると思っただけよ! それに……」
アリスは声のトーンを落とし、周囲の貴族たちをチラリと盗み見た。
平民出身の彼女に向けられる、冷淡で蔑むような視線。
「私みたいな平民の味方になってくれるような人なんて、ここにはあなたくらいしかいなさそうだし……」
(あ……)
強気に振る舞ってはいるけれど、彼女もまた、この身分差が渦巻く学園で不安と戦っていたのだ。ルノは胸の奥が少しキュッとなるのを感じた。
(平穏に目立たず生きたい……けど、困ってる子を見捨てるのは違うよね)
ルノの引きつっていた表情が消え、自然と柔らかい微笑みが浮かんだ。
「うん、よろしくねアリス。私でよかったら、喜んで友達になるよ」
「そ、そう? なら良かったわ。……はいっ」
アリスは腕を差し出した。
「? なにそれ?」
「握手よ! 握手!! 貴族って握手しないの?」
(アクシュ? なにそれ…? 取り敢えず合わせようか)
「あ、ううん、するよ! するする!」
ルノは慌てて手を伸ばし、差し出されたアリスの手をキュッと握り返した。
勝気な雰囲気に反して、握りしめられた手はほんのりと温かく、どこか小さくて可愛らしい。
「へふっ……!?」
ルノが思っていた以上にしっかりと握りしめてしまったからか、アリスは妙な声を上げてビクッと肩を跳ねさせた。勢いよく繋いだ手を見つめたあと、真っ赤になった顔をこれでもかと背け、ツンと明後日の方向を向く。
「ふ、ふん! これで私たちは友達なんだからね!」
異世界したけど記憶がないので、取り敢えず友達を作った。




