13異世界転生したけど記憶がないので、実習頑張りたいと思います!!
「…ルノ、あんたって本当に凄いわね!! 先生の『光』だせって無茶振りにいきなり答えちゃうなんて!!」
授業終わり。次の授業の教室へと向かう中、授業終わり。次の授業の教室へと移動する賑やかな廊下で、アリスは目をキラキラと輝かせながらルノの横顔を覗き込んでいた。
「ただの光の球体じゃないわ! 先生が『光を出せ』って言った瞬間、あんたの手元に現れたのは光そのものを飲み込むような『逆説的な漆黒の輝き』だったじゃない! 先生なんて『こ、これが無属性を超越した暗黒光……!?』って手帳にメモしまくってたわよ!」
(……違うの! 違うのよアリスちゃん!!)
ルノは心の中で血の涙を流しながら、魂が抜け出たような顔で廊下を歩いていた。
あの時、ルノは必死だった。
「光を出せ」と言われても、出し方なんて分からない。パニックになったルノがポケットの中のドライフラワーを固く握りしめ、「お願いだからこの場の光量をいい感じにしてごまかして……!」と無茶苦茶な祈りを捧げた結果、手元にあった教室の魔力による照明光が部分的に『消滅』し、結果として「黒く光って見える球体」のような怪現象が生まれてしまったのだ。
「あはは……まあ、結果オーライというか……」
「何が結果オーライよ、凄すぎるわ!……でも、あんたがそんなに凄くても、私は絶対に諦めないんだからね! いつかあんたの隣に胸を張って立てるくらいの『勇者』になってみせるわ!」
拳を握りしめて熱く語るアリス。その真っ直ぐな瞳と友情に、ルノの胃の痛みは少しだけ和らぐ。
(アリスちゃんは本当にいい子だなあ……。こんなポンコツな私を本気でライバル視してくれてるなんて、申し訳なさすぎて胃が千切れそうだけど……)
「ありがとう、アリスちゃん。私もアリスちゃんのこと、応援してるからね」
「ふ、ふん! 当たり前じゃない!……あ、次の授業は『実技戦闘』の演習場ね。早く行かないと席(立ち位置)がなくなっちゃうわ!」
アリスに手を引かれ、二人は屋外の広大な演習場へと向かった。
◇
「——よし、全員揃ったな!」
演習場の中央で腕を組み、待ち構えていたのは実技担当のガルド教官だった。
彼の背後には、巨大な木製の標的や、魔法の衝撃を耐えるための防護障壁が何重にも設置されている。
「今日の授業は二人一組による『前衛と後衛の連携訓練』だ! 前衛が敵の攻撃を引きつけ、後衛が最大火力の魔法を叩き込む! お前たち凡人が戦場で生き残るための基礎中の基礎だ!」
教官の鋭い一喝に、生徒たちが緊張感を持って背筋を伸ばす。
「ペアは自由だ! 互いの属性や得意分野を考慮し、最適な相手を選べ!」
教官の号令がかかった瞬間、周囲の貴族生徒たちが一斉にルノの元へと押し寄せようとした。
「シュバルツ様! ぜひ私とペアを……!」
「いえ、私の水属性防御魔法こそがシュバルツ様の『虚数魔力』を引き立てます!」
(ひぃぃっ! 来ないで! 頼むから私を巻き込まないでーっ!)
押し潰されそうになるルノだったが、その人波を割って威風堂々と前に躍り出た人物がいた。
「下がんなさいあんたたち!! ルノのペアは最初から私って決まってるのよ!!」
アリスだ。彼女は自慢の年代物の杖をバシッと構え、群がる貴族たちを睨みつけた。
「平民の分際でシュバルツ様の足を引っ張る気か!」と抗議の声が上がったが、アリスはどこ吹く風でルノの手をギュッと握りしめる。
「ルノ! 私と一緒にやりましょう! あんたの背中は、私が死んでも守ってみせるわ!」
「アリスちゃん……!」
周囲の視線は冷ややかだったが、ルノにとってアリスほど心強いパートナーはいない。何より、他の生徒とペアになったら「私の虚数魔力と合わせて連携を!」などと要求されて一発でポンコツが露呈してしまう。
「うん! アリスちゃん、よろしくね!」
「ふふん、任せなさい!」
こうして二人はペアを組み、演習場の指定位置へとついた。
◇
「よし、第一陣、位置につけ!」
ガルド教官の合図で、ルノとアリスを含む数組のペアが前に出る。
前方五十メートルの位置には、頑丈な鉄で補強された人型の訓練用ゴーレムが立ちふさがっていた。
「前衛がゴーレムの注意を引き、隙ができた瞬間に後衛が魔法で破壊しろ! 始め!」
「行くわよ、ルノ!」
アリスが颯爽と前に飛び出した。平民出身とはいえ、独学で鍛え上げたアリスの身ごなしは素早く、果敢にゴーレムの間合いへと踏み込んでいく。
「はぁぁぁっ! 『疾風の足打ち』!」
アリスの杖から放たれた小さな風の刃がゴーレムの足元を削り、体勢を崩させる。
「今よ、ルノ! 最大火力で撃ち抜いて!!」
見事な連携の隙を作り出し、アリスが弾けた笑顔で振り返った。
(えっ……えええええっ!? 火力!? 火力を出すの!? 打ち消す専門の私に火力なんてあるわけないでしょーーーっ!?)
ゴーレムは体勢を崩しながらも、ゆっくりとルノの方へと向き直り、巨大な岩のような拳を振り上げている。
(どうしようどうしよう! 魔法の出し方なんて知らない! でもアリスちゃんが命がけで作ってくれた隙なんだよ!? ここで『使えません』なんて言ったらアリスちゃんの努力が……!)
ルノはポケットの中のドライフラワーを指がちぎれんばかりの力で握りしめた。
(お願いだから! あのゴーレムの動力を……動いている原因を……存在そのものを……ちょっとだけでいいから『消して』ーーーっ!!)
固く目を瞑り、魂の底からの祈りを捧げる。
――その瞬間。
ルノの手元から、周囲の空気を歪めるほどの密度を持った無の波動が一直線に放たれた。
ズン、という重苦しい手応え。
爆発音も、華やかな光もない。
ただ、ルノの放った目視すら困難な漆黒の波動が通過した瞬間——五十メートル先にいた巨大な鉄補強ゴーレムの『上半身』が、まるで最初からそこに存在しなかったかのように綺麗さっぱり消滅した。
残されたのは、綺麗すぎる断面を残したゴーレムの足首だけだった。
静寂。
演習場全体が、凍りついたような静けさに包まれる。
「……は?」
杖を構えたまま固まるアリス。
「……な、なにが起きた……?」
生徒たちが目を見開き、ガタガタと震え出す。
ガルド教官だけが、握りしめた拳を震わせながら、狂喜に満ちた表情で叫んだ。
「素晴らしい……! なんという破壊……いや、『消滅』だ!! 物理的な破壊ではなく、対象の概念そのものを虚数空間へと追放したというのか!! これぞ完全なる絶対消去魔法……!!」
「「「ぜ、絶対消去魔法……!!?」」」
生徒たちの叫びが演習場にこだまする。
(ちーがーうーのーでーすーーーっ!! 私はただ『動かないで』って祈っただけなのにお腹が痛いよぉぉぉーーーっ!!)
心の中で血を吐きながら、ルノは膝から崩れ落ちそうになるのを必死で耐えるのだった。
授業後、ある男子生徒に求婚されることをまだルノは知らなかった。




