第二章 英雄はいない
七人の英雄を一つの部屋へ入れてはいけない。
婚礼の翌朝、聴取を始めて四半刻で、私は席を分けなかったことを後悔した。
「着用順に話してください」
「戦場ごとか?」
「怪我ごとだろう」
「暦をどちらへ合わせますか。北方暦なら月が二つずれます」
「俺、一番だったことにしてもらえません?」
「おまえは最後だ」
「最後まで生きたって意味なら、縁起がいいでしょう」
地下の旧兵舎は、王宮を包囲された時のために造られた。石壁は厚く、外の音を通さない。代わりに中の声がよく響く。七人が同時に喋ると、自分の質問まで聞こえなくなった。
私は卓上の呼鈴を鳴らした。
誰も黙らない。
もう一度鳴らすと、白髪の軍医が私の手を見た。
「殿下、その指はどうした」
「何がです」
「爪の脇。血が出てる」
婚礼衣装の金糸で傷つけたところだった。私は手を引いた。
「審問に関係ありません」
「化膿すれば指を落とす。指を落とせば署名に関係する」
「オド」
バルドが低く呼ぶ。
「黙れ」
「おまえはわしの上官をやめた。昨日、自分で求婚もやめた。今はただのでかい被告だ」
若い男が笑い、片腕の太い男――ハーゲンがその後頭部を押さえた。
七人は手首へ鉄輪をはめられ、長卓の片側に並んでいる。顔が違うことは、近くで見ればなおさら明白だった。
バルドは熊。オドは干した根菜。ハーゲンは大きな手で鉄輪を軋ませている。褐色の肌のサミルは背筋をまっすぐ伸ばし、処刑前というより他国の晩餐へ招かれたように座っている。笑ったフィンは、叱られる前の子供と同じ顔をした。最年少のユアンは椅子を壁へ傾け、こちらを見ない。
端にいるラウルだけは、空席に置かれた紙を見ていた。
「記録官はどうしたのです」
私の後ろにいた近衛隊長が答えた。
「辞退しました」
「王命による審問を?」
「黒玻璃の詐称者と同室に入り、自分の筆跡を記録へ残したくない、と」
慎重な男である。臆病ともいう。
私はラウルへ紙を押した。
「あなたが書いてください」
「被告です」
「記録係でもあるのでしょう」
「その兼任が、今回の原因です」
「経験を生かしてください」
フィンが小さく口笛を吹いた。バルドが見ると、すぐに天井の染みを数えるふりをする。
ラウルは両手の鉄輪を上げた。鎖は短く、右手を紙の中央まで運べない。
「このままでは書けません」
「右だけ外します」
近衛隊長がためらった。
ラウルは剣を持つ男ではない。だが、婚礼を壊した七人の一人であり、王太子の死に関わった疑いがある。私が頷くと、隊長は右の鉄輪だけを外した。
赤く擦れた皮膚が現れた。
「ほら見ろ」
オドが言う。
「手錠の寸法が悪い。王家は囚人の手首も一種類だと思ってるのか」
「あとで薬を」
「今やる」
「審問をします」
「化膿は審問を待たん」
オドは自分の靴下から、小さな軟膏壺を出した。
近衛隊長の顔から血の気が引く。
「なぜ囚人が薬を持っている」
「靴下は調べられなかった」
「調べたくなかったんでしょうね」
フィンが言った。
審問を続けるため、私はラウルの手首へ薬を塗ることを許した。オドは満足し、近衛隊長は今後すべての囚人の靴下を調べると誓った。王国の安全は、こうして少しずつ強固になる。
ラウルが筆を取った。
右の中指に、薄いインク染みが残っている。昨日今日についた色ではない。
「最初の質問へ戻ります」
私は七人を見渡した。
「黒玻璃の面頬を、最初に着けたのは誰ですか」
「俺です」
バルドが答えた。
「違う」
ハーゲンが言った。
「着けた者を聞いています」
「だから違う。最初は着けられる形じゃなかった。鼻当てが高すぎて、バルドは前が見えなかった」
「見えた」
「壁に三回ぶつかった」
「白火で目が焼けるよりましだ」
「最初にまともに使ったのは、マラだ」
部屋が静かになった。
バルドの亡妻の名だと、私は少し遅れて気づいた。
ハーゲンは太い親指で、卓の木目を押した。
「治療所から火の中へ戻った。面を持っていった。あの時は、騎士の紋なんかなかった」
「マラは兵ではありません」
私が言うと、オドが鼻を鳴らした。
「白火は身分を見て焼くのか」
「そういう意味では」
「では、どういう意味だ」
私は答えなかった。
ラウルの筆だけが紙を滑る。彼は誰の発言も整理せず、順に書いていた。オドの無礼も、バルドが壁に三度ぶつかったことも。
「黒玻璃の騎士という呼称は、いつからです」
「砦の子供です」
サミルが答えた。王国語は滑らかだが、敬語が一段多い。
「黒い顔の兵が毎晩来るので、そのようにお呼び申し上げました。誰が内側にいるかは、子供たちには重要でございませんでした」
「軍が正式に使ったのは?」
バルドはラウルを見た。
「あいつが報告へ印を付けてからだ」
「命令でした」
ラウルは書きながら言った。
「同じ部隊から筆跡の違う報告が出ると、後方が混乱する。差出人を面頬の印へ統一するよう、隊長が命じました」
「俺は印を一つにしろと言った。人間まで一人にしろとは言っていない」
「後方は、見たいものを見ました」
「おまえが見せたんだろう」
ユアンが初めて口を開いた。
「格好よく書いた。毎晩来る、死なない、負けない。俺たちが腹を下して交代した日は書かなかった」
「全員の腹を壊した煮豆を、英雄譚へ入れろと?」
「入れれば、一人じゃ食えない量だと分かった」
フィンがまた笑った。今度はバルドも止めなかった。
私はラウルの紙を覗いた。煮豆まで記録されている。
「あなたは、国が一人の騎士だと誤解していると知っていましたか」
筆が止まった。
「いつの時点ですか」
「最初に気づいた時です」
「質問を、答えにくく作っています」
「答えやすく作る義務はありません」
「砦の子供がそう呼んだ時、同じ呼称が便利だとは思いました。軍報が一人の戦果として読み上げられた時、誤解だと知りました。王都から最初の褒賞話が来た時、訂正すべきだと思いました」
「訂正しなかった」
「はい」
「なぜ」
バルドが答えた。
「死なない騎士が必要だったからだ」
「黒竜は、こちらが一人かどうかを気にしません」
「兵は気にする。昨日、腕を食われた騎士が今日も前線に立てば、自分も逃げずに済むと思う」
「実際には別人だった」
「逃げなかったのは本当だ」
「嘘で逃げない者を作ったのですね」
「そうだ」
バルドは迷わなかった。
その一語を、ラウルが紙へ書いた。バルドは自分の発言が残るのを見ていた。訂正も、書くなという命令もなかった。私は次の問いを見失った。
ラウルが紙を裏返した。
「殿下。続きは、別の紙へ」
表はもう埋まっていた。
彼の字を見た瞬間、喉が狭くなる。
公文の本文は伝令書記が清書していた。けれど、余白に消去液で隠された文字には、長い固有名の前でわずかに空く癖があった。目の前の紙でも、私の名の前だけ、同じだけ空いている。
私は紙から目を離した。
「最後に確認します」
七人へ向けたはずの質問が、ラウル一人へ向いた。
「この中に、本物の黒玻璃の騎士はいますか」
彼は新しい紙の上で筆を持ったまま、しばらく考えた。
「いません」
バルドが顔を上げる。
「俺たち七人が、という意味でもありません。面頬を作った者、運んだ者、着けたまま死んだ者がいる。誰か一人を抜けば嘘になります。七人を残しても、まだ嘘です」
「では、何がいたのです」
「困った時に、近くにいた人間です」
それを聞いたユアンが、椅子を四本の脚へ戻した。
「俺は近くにいたんじゃない」
低い声だった。
「逃げられない場所に置かれたんだ」
ラウルは何も言わず、その言葉を紙へ書いた。




